第9回日本料理分科会より  
 
 
     
 

 

揚げ物 餅蓮根の磯辺巻き
醤油だれ









 私が今のお店を開くとき、当時の流行として、八寸はなるべく削る方向にありました。また、出すとしても一人盛りが多く、たくさんの品数を出す店はほとんどありませんでした。でも、女性をターゲットに考えていたのと、華やかな料理を売りにしたかったので、流行に逆らって八寸に力を入れました。人目を引くため、大きな皿に多くの料理を彩りよく盛り付けることを考えました。
こういった盛り付けの注意点は、まず、小道具を使って立体感を出します(今回は八橋を使います)。次に、中心になるものの位置を決め、最初に盛り、あとは彩りを考えてバランスよく盛り付けていきます。数が多いですから、単に皿に置くだけでは乱雑になってしまいます。盛り付けのセンスは、絵を見たり、料理雑誌を見たり、他のお店の料理を食べに行ったりしたとき、勉強する態勢でいれば磨かれます。日頃からそういう目でいろいろなものを見て、訓練しておくことが大切です。私の店は季節の懐石料理をお出ししているので、レパートリーがたくさん必要です。日本料理には四季があって食材には旬があるので、一つの食材を触っている期間はフレンチやイタリアンの人達に比べると短いでしょうが、その分、多くの食材に触れ、多くの料理を知っているつもりでいます。

 八寸は2週間に1回メニューを変えます。総入れ替えではなく、半数を替えるようなやり方です。それでも年間で考えるとかなりの料理数で、これらを習得するのには、多くの時間がかかります。料理とは「理(ことわり)を料(はか)る」といわれますが、魚をおろしたり、大根の桂むきをしたりするのは原材料を加工しているだけのことで、これをどう料理するか、どういう調味料と合わせるかというのが料理なのです。ここが一番難しいところで、自分もまだまだ勉強中だと思っています。

 体調によって味覚は変化するかもしれませんが、そういったことに左右されない自分なりの尺度を持たなくてはならないと思います。それは経験によって培われるものです。これを持っていれば、自分の味付けを保てます。しかし、こういうことが出来るようになるには、かなりの年数がかかります。

 人はそれぞれ好みがあります。料理人とお客の好みがある程度一致していれば、お客が来てくれます。しかし、両者の好みが大きく違う場合は、方向修正をする必要もあるでしょう。自分の主張を出しつつ、お客の要求を少しずつ取り入れるというのが理想的ですね。私たちのような店では、ある程度のお金を頂いているので、おいしいのは当たり前です。どこで差をつけるかといえば、お店の雰囲気です。ほんの数時間の食事の間に、いかに楽しんでもらおうかといつも考え、「もてなす心」を忘れないようにしています。例えば、料理は片手よりも両手で出したり、お待たせしてすみませんという一言を添えたり、会話の弾んでいないところには声をかけたり、そういうちょっとした心遣いが大切です。お客さんにしたら、自分のことをいつも気にかけてくれていると感じられるとうれしいものでしょう。
 


八寸