第10回日本料理分科会より  
 
 
     
 

 

玉子にぎり









 今回は、「すり身(生身)」や「卵の素」を使った料理を中心に作ります。これらはいろんなつなぎとして使え、大きな力を発揮します。

 まずは玉子にぎりです。卵を焼かないで蒸すので、失敗が少ないです。温かい方が美味しい料理で、先付けや椀種、八寸の箸休め的なものとして使えます。

 椀物の海老真丈は、器に合わせて手で形作ると面白い形にできます。前盛りに若布・筍・人参を持ってきますが、主役である真丈を越すような形にしてはいけません。ものにはすべて「寸法」という程よい大きさがあります。輪島で聞いた話ですが、お膳の寸法は人間の肩幅を考え、無理なく運べる幅に決まっているそうです。
お能にシテとワキがあるように、料理も主役と脇役があってバランスのよい料理が出来上がります。吸地のあたりは9割が塩で決まります。醤油は香りづけ程度、酒はコクづけのために加えます。

 竹天やひろうすにも卵の素は入ります。ここではこくを出すという役割りを果たします。「竹天」というのは筍の天ぷらです。海老のすり身と卵の素を中心に生地を作り、筍で挟んで揚げます。ひろうすは具がたくさんありますが、一つ一つの形や大きさを見ると仕事が丁寧かどうかが分かるし、それが美味しさにもつながります。また、豆腐を越すような味付けにしてはいけません。

 総じて、慈しむつもりで料理を作ると美味しくできます。事務的にではなく、心を入れて作る事が大事です。 兆での修行時代は、ここで料理の文化を身につけよう。他人が5年かかるところを3年で、10年いたら20年分学ぼうと思っていました。これからの人たちには、計画的に将来を考えて欲しいと思います。

海老真丈椀

竹天


ひろうす

 
 
   

先付け



 先付けは穴子と根芋の胡麻浸しです。白だつの根芋は、あく抜きのために大根おろしとタカの爪を加えてゆでます。なるべく白く仕上げたいので、八正(はちまさ)醤油(白醤油と薄口醤油の間)を使い、みりんを使うと黒っぽくなるので、酒と砂糖でみりんの甘さを出します。穴子はふわりと焼き上げるのがポイントです。

 椀盛は蛤真薯の鶯仕立てです。真薯は大和芋を加えると芋臭く、浮き粉を加えると粉臭くなるので、昆布だしを分離する寸前まで加えていくというやり方をします。慣れてくるとすり身に対してどのくらいの昆布だしが入るかということが分かります。卵白は味の邪魔にならないのでフワッとさせるために少し加えます。吸口には山葵の葉や軸身の部分を小さく削いで徳利に入れ、熱湯を注ぎ、冷めるまでおいて作る「らん引き山葵」というものを使います。

 造りは鮪・鯛・平貝です。平貝は硬いので薄くそぎます。白ねぎのせん切りと種を取ってゆでたタカの爪を少量挟み、オリーブオイルとごま油を合わせたものを絡めるようにします。今回三人分を一度に盛りますが、器の中の一割はあけるようにした方がきれいに見えます。

 焼き物は鰆の味噌幽庵地焼きです。中は白くて味が染み込んでいない方がいいでしょう。中の淡泊さと外側のこってりした味のコントラストが美味しさです。器が華やかな場合は皆敷はない方がいいと思います。生け花の中に料理があるようではいけません。

 進肴は鯛の潮鍋です。ここで使う筍は朝掘りですが、あく抜きはした方がいいでしょう。少しの糠とタカの爪を入れて炊きます。その後、私は糠抜きというものをします。使う時、ゆでた鍋から取り出し、だし汁と水を同割で合わせたものでさっと煮るのです。こうすると糠臭さのない美味しい筍になります。

椀盛り

 


造り




焼き物

進肴