第8回日本料理分科会より  
 
 
     
 

 

伊勢海老沙布蘭味噌煮

 「大阪料理は合理的」というのがひとつの特徴です。京都は公家文化で贅を尽くした雅なものですが、大阪は庶民の文化です。ひとつの食材を全て使いこなす。材料の残ったものも、手間暇かけて工夫して第一線までもっていって味わうという意識が根本にあります。代表的なのが船場煮です。それと、天下の台所といわれるように、交通手段が発達していない時代でも、いろいろな食材が集まってきていたので、無理なく何でも使いこなしてみようというのも大阪の料理です。

 「京の持ち味、大阪の食い味」という言葉があって、京都は食材を生かす薄味の味つけ、大阪の場合は「はんなり」か「まったり」という言葉で表されるように、食材を生かしつつ、食べてぐっとおいしいと感じるよう、趣があって、かつ深みのある味わいに仕立てます。

 父(上野修三氏)が大阪独自の野菜・食材を見つめ直そうという会をやっています。8名くらいで始めて、今では農家の方・農場試験場の方・料理人などで会員100名弱になっています。大阪独自の食材があるということをご存知の方は少ないでしょう。京都の場合「京野菜」という一種ブランド化しているものがあり、昔からのいいものを地域ぐるみで残そうという動きがあります。それに対して、新しいものをどんどん取り入れると同時に、反面、大事な伝統的なものを失っていっているのが大阪人の気質です。

 例えば天王寺蕪。昔、信州から来られたあるお坊さんが、召し上がってとても気に入られたので、信州に持って帰って育てようとされました。でも、土壌が違うので蕪の部分は育たず、葉っぱばかりが成長しました。 これが野沢菜の元になったといわれます。野沢菜はだれでも知っているのですが、天王寺蕪は知られていません。他にも、田辺大根・毛馬胡瓜・こつまなんきん・泉州の水茄子などなど、大阪独自のおいしい食材はたくさんあります。

 今回の講習は「日本料理とワイン」がテーマですが、合うものもあれば合わないものもあると思います。自分の中でもワインに対する考え方が変わってきているので、自信はありません。私の店にもワインを置いていますが、お客さまに楽しく過ごしていただきたいと考えるからです。

 ブドウの酸が基本的には、鮪・鰹・青背の魚には合いにくいように思われます。日本料理は味が薄く、ワインの方が味が濃いので支配しようとします。だから、双方がけんかするようなことも出てくるでしょう。料理人の立場からしたら、あくまでも料理が主であって欲しい。

 米の酢とワインというのも疑問があります。すしや酢でしめた魚、さらに数の子・赤貝・鮪などです。鴨のくわ焼きなどは、醤油味でも、ワインと合うような気がしますが……。

 どう感じるか、個人差もあるでしょうが、日本料理には、やはり日本酒のとろんとしたものが良く合うと思います。
 


鯛の共白子包み
桜香コンソメ仕立


合鴨の蒸しロースに
クレソンの摺り流し