1962年東京都生。
北里大学獣医畜産学部畜産土木工学科卒業。
 サラリーマンを経験後、家業の米屋「スズノブ」を継ぐ。
平成11年、社団法人日本米穀小売振興会主催の
優良米穀コンクールで「食糧庁長官賞」を受賞。
同年、米・食味鑑定士の資格取得。
次世代型の新しい米専門店作りに専念するかたわら、
「お米博士」・「米のソムリエ」として、学校などで講義、
新聞・雑誌に原稿を掲載、テレビ出演も数多い。
著書に「ご飯革命」。
辻調グループ校の一つエコール・キュリネール国立の
辻日本料理専門カレッジ講師。
 
 
 

「確かに料理はおいしかったのよ。だけどご飯がひどいの。ツヤはないし、ボソボソしているし。素材にこだわっているおいしいお店だと聞いていたからせっかく食べに行ったのに、ガッカリさせられたわ。」
   これが、ここ数年自分の店で一番よく聞くお客様からの愚痴です。思い当たったり、耳の痛い方はいらっしゃいませんか。「食材にこだわり、産地や栽培などを厳選しています。」といっても、お米まで吟味している方はいったいどれくらいいらっしゃるでしょう。

 確かに、ご飯の材料はお米と水だけ。研いで浸水し炊飯器のスイッチを入れるだけですから、どこにも料理人としての「腕」を発揮する余地などなさそうです。ついつい、一般的においしいお米として知られている、魚沼郡コシヒカリや秋田県あきたこまちを使用し、厳選している・吟味しているといってしまってはいないでしょうか。

 素材が持っている優れた特徴を認め、それをいかに料理に生かすかというところに「厳選する・吟味する」という言葉の真意があるのではないかと思います。有名な産地、知っている品種などという大雑把な選び方は間違っていると思いませんか。

 ところで、ご飯というものをどのように考えていますか。「あまりかわりばえがしないもの」「可も不可もない食べもの」「すべて業者に任せているもの」「価格を優先しても損傷がないもの」等。野菜・魚・肉などと比べると、かなり安易に考えてはいないでしょうか。その結果があの愚痴となっているのです。

 
 
 

 

 

 

 

 いま全国で作付けされている品種は230種類(酒米やもち米を含めると400種類)以上。近頃はコシヒカリの血を引いている品種(2代先までさかのぼるとコシヒカリに行き着く)が多いので、どうしても味や特徴が似通っていますが、それでもハッキリとした違いがあります。それを判断するのが、味(旨味・甘味)、粘り(粒張り)、柔らかさ(食感)、香り、外観(つや・見た目)の5項目です。




一番外側の点を満点として、いま食べているお米を
五つの項目で採点して下さい。
家族でそれぞれ採点して、
その平均値をとってもいいでしょう。

 点数を結んでできる五角形が大きく、
正五角形に近いほどバランスのとれた
「美味しいご飯」と言うことになります。

小さいが正五角形に近いのは、それなりにバランスが
とれているという評価になります。
いびつな五角形になるご飯は、点の低い項目を
補ってやれるお米をブレンドすることで
「美味しいご飯」に近づけることができます。



 5項目を図のように配置して、中心が0点、外に行くほど評価が高くなるようにご飯の採点をします。点数を結ぶ五角形が大きくて正五角形に近いほどバランスがとれた「おいしいご飯」となりそうですが、実際は、必ずしもそうともいえません。たとえば「味」の項目で、ご飯としての味がハッキリしているお米ほど満点に近くなるのですが、アッサリとした淡白なご飯が好みいとう人なら、この評価は低いほうがよいということになるからです。ご飯の味はそれぞれ好みがありますから、それを判定することは意味がないのかもしれません。でも、自分の求めている食感を客観的に判断するための参考にはなるでしょう。いま食べているご飯の、どういう点がお客様にとって不満なのか、どうなればおいしいと思っていただけるかをこの5項目に割り振って考えてみて下さい。すると、「いま食べているお米よりもう少し柔らかめで、粘りが強く、香りが高いものがいいのでは」というようなことが分かってきます。これで、自分でお米を厳選・吟味するきっかけを見つけてもらえたらと思います。
ところが、その年に収穫された中でのよいお米を使用し、割れないよう素早く丁寧に研ぎ、旨味が引き出せるようになるまで浸水させてから炊飯し、蒸らし過ぎないように気を配り、ご飯が潰れないようにふっくらとシャリ切りをしているにもかかわらず、お客様から愚痴を聞かされることがあります。「料理も美味しかったし、ご飯もとっいても美味しかったんだけど、何か合わないというか、ちぐはぐというか、今ひとつシックリとこなかった」等々。曖昧で漠然としているので、最初はこの意味を理解できませんでした。色々な方からの同じような表現を聞いているうちに、それが(料理との相性や味のバランス)と(ご飯の持ち味)にあるのだと気がつきました。

 まず、料理との相性や味のバランスについて考えます。たとえば寿司米には、お酢との相性がよく、握りやすくてタネの味を殺さない、粘りがなくアッサリとした食感の(ササニシキ・つがるロマン等)が向きます。味が濃く、粘りも強い(コシヒカリ)では、粘りのためにシャリ切りが出来ず、握りも重く使いにくい。さらに、シャリの味が濃いので、白身の魚や貝などのように淡白な味だと、シャリの味が勝ってタネの味を殺してしまうようです。炊き込みご飯には、ダシ汁や食材の旨味をご飯が吸い込んでも、米粒が潰れず、べたつき過ぎず、口当たりのよい(ひのひかり・あきたこまち等)がお勧め、おにぎりには、粘り過ぎずされどパサつかず、常に形を保ちながら、冷めてもご飯の旨味が消えない(コシヒカリ<硬めの産地>・はえぬき等)が最適のようです。これらのことは、蕎麦や味噌汁と重ね合わせてイメージしてもらえればよいでしょう。ただし同じ品種でも、産地や気候・栽培条件などによって、ご飯に微妙な違いが出てしまうこともあります。これがご飯の持ち味で、炊いた時、粘りの強いご飯になったり、あまり粘らなかったり。味の個性が強くでたり、さほど出なかったり。炊き立ては美味しいが、冷やご飯になると味が落ちてしまったり、冷めてから旨味が伸びてきたり。冷やご飯になっても、ほとんど旨さが変わらないなどということになるのです。

 さて、いままでは、素材を厳選するという考え方から、単品(1品種)での話題でしたが、ここからは複数の種類をブレンドする話です。ご存知の通り、お米は1年に1回しか収穫がない上、天候に左右されやすく、害虫や病気にも弱い作物です。毎年、品質や味が同じだという保証はどこにもありません。こういう時でも、常に「美味しい」といっていただくためには、ブレンドという技術が必要不可欠です。しかし、ただ闇雲に有名な品種ばかりを混ぜ合わせても、決して「美味しい」とはなりません。必要なのは、常に使用しているお米の特徴を示した5角形の図です。図から違いを見極め、不足している項目の特徴を補ってくれる品種をブレンドしていくことです。たとえば、粘りを引き出したい場合は(ミルキークイーン・夢ごこち等)話題の新形質米を最大2割まで加えるか、(魚沼郡コシヒカリ等)もともと粘りの強いお米を3割程度加えます。アッサリとさせたいなら(ササニシキ・夢あこがれ・つがるロマン等)を加え、ご飯に旨味を持たせたい時は(コシヒカリ・あきたこまち等)を加えます。ブレンドは、2品種の場合から、数種類に及ぶ場合もあります。比率も品種によって当然異なりますが、5角形の図が崩れなければ基本的に問題はありません。


 また、この方法が使いこなせれば、美容と健康によいと女性を中心に話題となっている(発芽玄米・分搗米(ぶんとうまい))を加えることも可能です。発芽玄米とは、文字通り(発芽させている玄米)で、栄養価(糖質・タンパク質・食物繊維・ビタミンE・ビタミンB1・カルシウム・マグネシウムなど)の高い玄米を、いかに食べやすくできるかという観点から開発されました。普通の玄米よりもヌカ層が柔らかく食べやすい上に、血圧の降下作用、中性脂肪の抑制などの効果があるとされているγ−アミノ酪酸が、白米の10倍にもなります。普段食べている白米は、精米して周りのヌカと胚芽を取り除いた胚乳を指しますが、分搗米とはヌカ層と胚芽を残しつつ精米加減を調整したもので、玄米に近いものから、3分づき、5分づき、7分づきとなっています。分搗米と胚芽米は、同じものと考えられがちですが、胚芽のみを残してヌカを全て取り除いたものが胚芽米です。いずれも、お米の特徴を示した5角形の図を応用し、ブレンドする相手や比率を探すことで、ボソボソ感をなくして食べやすくしたり、さらに甘味を出したりすることが出来ます。

 「話題の」といういい方をしましたから、最後にもう一つ話題のお米をご紹介します。しかし、これについてはいままでの話がほとんど通用しないので、自立したものと考えなければなりません。それが(研がずに炊ける無洗米)です。研ぎ汁が出ないので環境にやさしい。人件費と水道代が低減できる。常に一定した炊き加減のご飯を提供できる。品質の安定化にもつながると、よい面ばかりが広まっています。しかし、陰の大きな問題として、高価な設備を整えた精米工場でしか作られていない。一般受けする品種しか販売されていない。個々の店の細かい要求には対処できない。一般の米とブレンド出来ないなどリスクもあるのです。こういうことを知った上で使用してほしいと思います。

 ご飯は(主食)ですが、料理の一つでもあります。料理の(味)を決めるのは、調理の仕方(技術)と食材の良し悪しです。よい食材、つまり自慢の料理に合うよいお米を選び、そのお米に合った炊き方をすれば、愚痴ではなく、お客様が自慢できる、また来たいお店、紹介したいお店になるでしょう。