第4回西洋料理分科会より  
 
 
     
 

今回の講習会では、オーナーシェフの勝又氏のお話に受講生の興味が集中したようです。料理に対する考え方や食材へのこだわり、経営者として、また料理人としてのお客様との接し方などの話題が次々に飛び出しました。


 

 

 

 

 

 

 

 まず、僕がなぜ都心から離れて箱根に移ったかということからお話しします。
 「オー・ミラドー」を開店するまでは、東京都内で3軒の店を経営し、ほかに10軒ほどの店を見ていました。このように多忙を極めた毎日の中で、料理を作りながら頭の中にずっとひとつの考えがありました。それは、都内でこんな新鮮な食材が手に入るのなら、その食材を作っているそばならさらにいい状態で料理が作れるのではないか、そんな食材を使って料理を作ってみたい、ということでした。それに、良い料理店(レストラン)といわれるものが都心に多く、常に料理の情報が都心から発信されているような状況にも不満がありました。そこで、思い切ってそれまでやっていた都心の店をやめ、この箱根に店を移転したのが15年前になります。
はじめは思い通りの食材が見つからず、地元の農家の人たちと話し合ってフランス料理に合う野菜を作ってもらうことに苦労しました。生産性、つまり、その野菜を作ってその農家はやっていけるかということも考えなくてはいけなかったからです。
 今では、会社勤めをしていたご子息が家に戻って来て農業を継いだ家もあります。また、そのような野菜を作っていることを知った僕の仲間や後輩から、その農家の野菜を買いたいという話が持ち上がったりして、生産ラインにしっかりと乗っています。こういったことは、地域の活性化や地方からの情報の発信にもつながるのではないかと思っています。
  現在「オー・ミラドー」では敷地の裏で野菜を作っており、イチゴやミカン、洋梨といった果 物もあります。また、淡水魚はレストランの裏の生け簀にいつもいっぱいいますし、新鮮な海水魚が毎日、相模湾と駿河湾から輸送されてきます。ですからフランスのオーベルジュとまったく同じ条件で、ひょっとするとフランスよりいい条件で運営が出来ているかもしれないと自負しています。
  オーベルジュというのは料理を食べていただくのはもちろんですが、同時に宿泊も兼ねた施設です。われわれは、よくお客様の質についていろいろと言う事があります。僕は常日頃から、「オー・ミラドー」で働いてくれているスタッフに、「お客様の質を問う前に、働いているこちら側の質はどうか」と言っております。宿泊をともなうので、レストランよりもお客様の滞在時間はずっと長くなります。その滞在時間の間中、迎えるこちら側がお客様の要望に応えられるだけの力があるのかどうか、それをいつもスタッフと考えながら店づくりをしています。この店が手本になって、このような形態の店が日本に増えればいいと思っています。