1999年8月から約半年間、イタリアで研修する機会を得ました。
 はじめに、ピエモンテ州アスティ県コスティリオーレ・ダスティにある、外国人の為のイタリア料理の教育機関であるI.C.I.F.にて、約2ヵ月間の研修を受けました。ここではイタリア料理の基本、地方料理や地方菓子、パン、ワイン、サーヴィス、食材等についての授業が行われ、それ以外にチーズ、コーヒー、ワイン、パスタ、オリーブ・オイルなどの生産工場の見学もありました。
 特に見学に関しては、今まで本などからの情報で知識はあったものの、実際に現場を目の当りにしてみると改めて学ぶことが多くあり、また、生産に携わっているイタリア人から直に学ぶことで、彼らの考え方、習慣などをより深く知ることができて、大変勉強になりました。
 I.C.I.F.での研修中には、本校がイタリア研修旅行で毎年うかがっている有名なリストランテ「ヴィッサーニ」のシェフの森氏が、店のスタッフと一緒に見学に来られるといったこともありました。短い時間しかお話できませんでしたが、驚いたのと同時に思わぬ方からの激励をいただき、大変励まされました。
 こうして2ヵ月間があっという間に過ぎ、10月中旬に現地でのリストランテ研修に入りました。私が研修したのはミラノから東に123km、マントヴァ近郊のカンネート・スッロッリオにある「ダル・ペスカトーレ」です。この店はミシュランをはじめエスプレッソ、ガンベロ・ロッソ、ヴェロネッリなどの代表的なグルメガイドで高い評価を受けており、各ガイドの評価を集計しての総合ランキングでもここ数年首位を守っているリストランテです。車でないと不便な郊外にあるにもかかわらず、イタリア人だけでなく多くの外国からのお客様が連日訪れる店でもあります。
 研修初日、緊張して店に赴くと、御主人のアントニオ氏とシェフのナディアさん御夫婦自らが真っ先に温かく迎えてくださり、挨拶をすませた後、すぐに調理場で仕事が始まりました。まず驚いたのは、調理スタッフの人数が思っていたよりも少なかったことです。イタリアのレストランには家族経営が多いという話は聞いていたのですが、御家族以外には私も含めて3人しかいませんでした。客席がそれほど多くないとはいえ、これほど有名な店なので、もっとスタッフが多いだろうと考えていたのですが、拍子抜けしてしまいました。
 さらに、当然日本人もいるだろうと思っていたのですが私だけで、仕事中はもちろんそれ以外のときも、イタリア語だけしか使わない環境での研修となりました。慣れるまでは意志の疎通がうまくいかず大変苦労しましたが、逆にイタリア語に関しては非常に勉強になりました。
 店のメニューはこの地方の伝統的な料理を洗練させたものを中心にして組まれており、アンティパスト、セコンド・ピアット、ドルチェをシェフのナディアさんが、プリモ・ピアットをお母さんのブルーナさんが担当されていました。私は主にアンティパストの担当でしたが、仕込み時にはすべてのセクションの手伝いをさせていただけ、ブルーナさんにもパスタについて色々教わりました。ナディアさんはとても親切にしてくださり、仕込みをしている時などは時間のある限り料理について説明をしていただいたものです。ある日、質問をしたときなど、その場ではわからないことだったのですが、後で本を調べてまで答えをいただけました。しかしひとたび営業が始まれば料理の仕上がりなどには非常に厳しく、盛り付けなどでイタリア人スタッフとともに私も何度か注意を受けました。その人柄は店のあらゆる面に反映されています。数年来この店がトップの座を維持できているのは、料理の完成度の高さとともに、そのような真摯な姿勢と細やかな心遣いのゆえでもあるように感じました。冬のヴァカンスシーズンには、2週間という短い期間でしたがトリノの1ツ星のレストラン「バルボ」で研修をさせていただきました。シェフのルイジ・カプート氏は大変親切にしてくださいました。ピエモンテ料理を教えていただいたのは勿論ですが、料理人としての在り方にも感銘を受けました。
 お世話になった皆さんには大変感謝しています。この貴重な経験を今後に生かしていきたいと思っています。

<西洋料理助教授 小竹 龍児>

 
  ●辻調グループ校が「九州・沖縄サミット首相主催 社交夕食会」の料理を担当