個性が響き合う環境を大切に。
- 2022.03.11
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辻製菓専門学校 1986年卒業
新田 英資さん
コロナ禍でも、どちらかと言えば好調な製菓業界。ただ、何もせずに待っているだけで好調になるわけではない。
新田さんの店舗があるのは、瀟洒な家が立ち並ぶ住宅街の一角。このエリアに住む人たちの要望に寄り添うのは当然として、店からの提案も大切にしていると新田さんは言う。
「日本各地の農家さんから旬の食材を取り寄せて、季節ごとに限定商品を用意してるんですが、イチジクやマンゴー、丹波栗などの定番食材だけじゃなく、リュバーヴなどの一般的には知られていない食材も使うようにしています」
圧倒的に美味しいからというのはもちろんとして、ここへ来れば新しい素材に出合えるという期待感も生まれるため、季節限定商品を心待ちにしているリピーターの方は多いらしい。
「素材との出会い方はいろいろです。地方へ視察に訪れた際、地元の人から教えてもらったり、スイーツコンテストの審査員を引き受けたのが縁でつながったり、友人から紹介してもらったり。素材の品質はもちろん見ますが、それよりも作り手の想いや姿勢をしっかり聞くようにしています。そうすることで、いいものをつくりたいという想いが湧き上がってきますので」と新田さん。
とはいえ、やはり定番商品を気に入ってもらわない限り、季節限定商品への広がりは期待できない。地味な作業だが、あらゆることにアンテナを張り巡らせ、定番商品の改良には常に取り組んでいるそうだ。そうした日々の積み重ねがあるからこそ、取材中も引っ切りなしにお客様が来店するような人気店になれたのだろう。
見るからに穏やかで優しそうな新田さん。その人柄がにじみ出た上質なお菓子に惹かれて来店するのは、何もお客様だけではない。ここで働きたいというスタッフたちも、多く集まってくる。
「私は現場に立ってつくるのが大好きな人間なので、スタッフにもその楽しさを知ってもらいたいと思っています。だから、一から十まで私のやり方を教えるのではなく、ある程度はスタッフの考えや個性を尊重して任せるようにしています」
「機械化したり、省力化したりする流れもありますけど、そうしてしまうと職人が減ってしまいますし、つくれるものにも制限が出てきます。つくることが好きですし、お客様に喜んでもらうためにつくっているので、効率や利益ばかりを追求しようとは思っていません。現場で試行錯誤することで、新たなアイデアが湧いてくることもあるので、第一線にずっといたいですね」
素材や製法に細部までこだわった仕事をやっていると、どうしても張り詰めた空気になりがちだが、キッチンの中を覗いてみると皆いい表情で働いていた。「パティシエであること以前に、人としての考えを大切にしている」という新田さんの言葉通り、お互いに意見を言い合えるフラットな関係を築けているようだ。
コロナ禍のような環境の変化を乗り越えるためには、多様な個性が響き合える環境が一番大切なのかもしれない。
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