資源と幸せが循環するレストランを。
- 2022.03.26
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辻調理師専門学校 2003年卒業 / 辻調理技術研究所 2004年卒業
船岡 勇太さん
船岡さんの人生が大きく動き出したきっかけは、海外にある。多くの名店で腕を磨いた後、サッカー選手の本田圭佑氏の専属シェフとして世界を飛び回っていた船岡さん。2019年にカンボジアを訪れた際、価値観を大きく揺さぶられる出来事があったそうだ。
「母親が病気で6歳の頃から働いているという子どもに出会いました。話をしている中で自分が料理人であることを伝えたんですが、その子は料理人という言葉を知らなかったんです。自分がつくった料理の写真を見せて説明すると、『こんなキレイな料理はカンボジアにはない。これを食べたらお母さんも元気になるかもしれないから、ぼくも料理人になりたい』とその子は言いました」
料理のクオリティだけを追求してきた船岡さんだったが、多くのカンボジア人と交流する中で「料理をつくるだけでは、彼ら彼女らを幸せにはできない」と考えるようになり、教育によって貧困からの脱却をサポートしようと、プノンペンに料理学校をつくる決心をする。
船岡さんのすごいところは、決心するだけではなく必ず行動を伴っている点。学校建設に向けてプロジェクトは今も着々と進行している。さらに、貧富の差が激しくホームレス問題が悪化しているサンフランシスコでも、貧困層を雇用して運営するレストランを2025年に出店計画中だ。
「本田さんや修行時代にお世話になったラ・シーマの高田シェフなど、多くの人との縁に恵まれたおかげで、当時の僕はとても幸せでした。だったら今度は、その幸せを周りの人に分けられる人になろうと思ったんです。料理をお金儲けのための手段ではなく、夢を叶えるための手段として捉えています」
また、オランダを訪れた際、現地のシェフに日本について聞かれた時のことを、船岡さんはこう振り返る。
「モッタイナイ精神の話をしたら、そんなのオランダでは顔を洗うくらい当たり前のことだと言われたんです。恥ずかしかったですね。つくって使って捨てる日本と、つくって使って使い続けるオランダ。食材に限らず、あらゆる資源が循環しているオランダで、僕はサーキュラーエコノミー(廃棄物を出さず資源を循環させる経済)の重要性を学びました」
現在の店のコンセプトが「循環型フレンチレストラン」なのは、この経験がもとになっている。店内の建具や装飾は当然、破棄資材を再利用しているし、コースの料理は市場で売れ残って困っている食材を引き取って、その日限りのメニューをつくっている。今の店だけでは救えるロス食材に限りがあるため、2022年までにはビル一棟を使った新店舗もオープンさせる予定だ。
「テクノロジーが進み過ぎている現代だからこそ、僕はアナログ的に自分の目と耳で確かめることを大切にしています。生産者に会いに行く。直接やり取りをする。そうしていると、朝にこんな魚があるから買ってくれないかと電話が掛かってくる。いい魚なのに高いから誰も買い手がつかない魚もあるんですよね」
流行りのサスティナビリティを追いかけているわけでも、自分のやりたいことをお客様に押し付けているわけでもない。船岡さんの行動は、どれも周りの人を幸せにするためのものだ。そのために動き続け、攻め続けている。
「最高の料理人はおかんだと思うんです。相手の気持ちに寄り添って、その人のために一生懸命になれるって最強じゃないですか。そんな料理人をめざして、幸せな人の分母を増やすための活動を拡大させていきたいですね」
船岡さんの店舗経営は、コロナ云々とは関係のない次元にある。紹介しきれないほどのプロジェクトを動かし、数えきれないほどの人を巻き込んでいる。これからも船岡さんは、あらゆる方向へ舵を切り続け、とてつもなく遠いところまで幸せを届けにいくに違いない。
Q & A
コロナ禍で大切にしていることは?
ネガティブなことを言わず、人を見た目で判断せず、常に人の気持ちを考え、異業種の人と積極的に交流し、理想を実現させるために明日死んでもいい覚悟で行動し続けることですかね。
従業員のモチベーション維持のコツは?
うちは料理人を集めるよりも、多様な個性をもったスペシャリストを集めています。だから、それぞれの人間性を大切にして、全員が自分の長所を伸ばせるように何度でも挑戦できる機会を用意しています。
いま一番注目していることは?
大阪万博です。僕が今まで世界中で出会った子ども達を雇用するレストランを構想中で、その子達に日本の良さを伝えたいし、日本の子どもたちには世界を知ってほしいと考えています。
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