地域自体をサステナブルにする。
それこそが料理人の使命。
- 2023.05.31
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エコール 辻 大阪 1999年卒業
池端 隼也さん
石川県輪島市出身。高校を卒業してすぐ大阪のエコールへ入学。辻調卒業後は大阪の『ランドリエ』で研鑽を積み、2006年にフランスへ渡る。星つきレストランで4年ほど修業した後、自分の店を立ち上げる。1年ほど経過した時、母親にガンが見つかり日本へ戻ることに。能登に帰った際、ケータリングであちこちから声が掛かり、高校生の記憶で止まっていた能登が、いかに素晴らしい土地かを初めて知る。
地元である能登に帰ってきた時、池端さんは能登のポテンシャルに驚いた。
池端さんはフランスでもお店を出していたが、食材も文化も星つきレストランがあるフランスの地方と比べて遜色がないと感じたそうだ。あとは、どうやってそれを磨き込んで、人を呼び込めるようにするか。そう考えた池端さんは、地元のつながりを活かして生産者を巡り、能登を深掘りしていった。
「母方の実家が農家で、父方の祖母は海女なので、色々なつながりはあったんです。でも、オープン当初は苦戦しましたね。フランス料理という新しいものが輪島で受け入れられなかったんです」
まずはフランス料理がどういうものかを知ってもらうために、3000円のコースをつくったりして認知に力を注いだ。そうして3年ほど経った頃、フランス産の食材は一切使わず、地元の食材だけを使ったフランス料理を提供できるようになったそうだ。
そして現在、池端さんは多くの漁師や生産者と深い繋がりを持ち、実に幅広い分野の課題解決に挑んでいる。
たとえば漁師との関わりでいうと、大量に獲って安く売るという固定観念を払拭するところから始めたそうだ。そのために漁師たちをお店に呼んで勉強会を開いたり、実際に料理を食べてもらったりして、自分たちが獲った魚の市場価値を知ってもらう取り組みを続けてきた。
仲買人が一方的に値決めをするのではなく、価値を理解して自分たちでも値決めできるように意識を変えた上で、池端さんは正当な価格で直接取引をしている。農家との関係も同じで、日本一のトマトだと思っている能登のトマト農家からは、農家がつけた値段の倍額でトマトを購入しているそうだ。
牛肉に関しても、かなり力を入れて取り組んでいる。お店で使っているミルクはジャージー牛のものだが、ジャージー牛のオスはミルクを出さないため仔牛のうちに殺処分されてしまうという現実がある。それを知った池端さんは、仔牛の命を無駄にしないために別の牧場で飼育してもらって、それをお店で一頭買いしているのだ。
牧場がお金を払って殺処分していた命を、お金をもらって有効に活かすことができる。さらに、池端さんの手によって多くの人が喜ぶ料理にしてもらえる。これは地産地消という観点だけではなく、食の在り方自体を考え直すきっかけにもなる重要な取り組みだ。
店の売上のことだけを考えれば、安く仕入れられた方が得なのは事実。しかし、生産者が苦しい状況だと作る人も質の良い食材も減っていく。そうなると、レストランはつくるものがなくなり、それを食べるお客さんもいなくなっていくという負のスパイラルに陥ってしまう。目先の利益ではなく、地域全体と関係するすべての人のしあわせを考えて池端さんは行動しているのだ。
ただ、一人で取り組むには限界もある。より多くの食材や生産者、文化を守っていくために池原さんは、能登の料理人を集めて課題解決をするための団体も発足させた。生産者と料理人が力を合わせ、さらに自治体や企業とも連携しながら、100年後の能登の食文化を創造しようと日々活動しているそうだ。
「地方は大量生産・大量消費という資本主義的な発想に走ってはいけないと思うんです。生産者も料理人もお客さんも、地域に暮らす人々も含めて、みんながしあわせであることこそがサステナブルですから」
将来的にはオーベルジュにすることで滞在時間を長くして、もっと自分たちの考えや能登を知ってもらいたい。そして、それぞれの場所に持ち帰ってもらいたい。そんな思いを抱いている池端さんは、今後もさらに能登を深掘りしていくつもりだし、若い料理人にも能登の可能性を知ってもらいたいと考えている。
「能登に来たいと思う料理人がいれば、何でもお手伝いしますよ」
屈託のない笑顔でそう語る池端さん。こんなにも本気で地域を愛し、地域に愛されている人は他にいない。
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