料理ができる喜びを感じて。
- 2020.07.30
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辻調理師専門学校 1985年卒業
伊藤 博之
国内で最も早く感染が拡大した北海道。2月には北海道独自の緊急事態宣言が出され、3月に一旦解除されたものの4月には全国で緊急事態宣言が再び発令。バイキングを休止するなどの段階的な措置を取ってきたが、このタイミングで札幌グランドホテルは全レストランの休業に踏み切った。
「この時はまだ、ゴールデン・ウィークには再開できると思っていたんです。だから、その分の食材なんかも確保していて」と伊藤さんは振り返る。「結果として、お客様と従業員の安全を考えて、5月1日から2か月間ホテルを全館休業にしたため、大量の食材が余ってしまいました。賞味期限や冷凍焼けをチェックするだけでもひと仕事です。正直、休業中の方が普段より忙しかったですね」。
というのも従業員が自宅待機している間、各部門の支配人だけは週に何度か出勤して、営業再開に向けた膨大な仕事に取り掛かっていたのだ。具体的には、お客様を安全に迎え入れるための衛生基準の策定会議がいくつもあり、その合間をぬって厨房や客室の冷蔵庫のコンセントを抜いて回ったり、配管維持のためにすべての蛇口をひねって定期的に水を出したりと、裏方仕事も大量にこなしていたそうだ。
「衛生基準については、現場からの声も吸い上げて100を超える基準をつくりました。正解がわからないのでかなり苦労しましたが、すべてはお客様に安心して食事していただくため。そして、安心して宿泊していただくためです。細かい部分まで徹底的に詰め切りました」。
ホテルは休業中でも、伊藤さんはフル稼働。テイクアウトの準備も保健所に相談しながら進めていき、7月10日から販売を開始。ホテルの味を待ちわびていたファンからは、喜びの声がたくさん届いたそうだ。
「毎日、本当に大変でしたが、7月1日にホテルが営業を再開して、改めて実感したことがあります。それは、料理ができる喜びです。お客様に喜んでいただくために料理することは、こんなにも嬉しいものだったんだと改めて気づかされました」。
何をつくるのか。どうやってつくるのか。それも大事なことではあるが、最も重要なのは「何のためにつくるのか」。この存在意義とも言うべき原点が揺るがなければ、どんな苦境にも立ち向かっていける。
伊藤さんは、そう教えてくれた。
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