どの店も同じスタートライン。
- 2020.07.21
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辻調理師専門学校 1983年卒業
種村 康典
日本各地のホテルや旅館、飲食店のフードコンサルティングをしている種村さん。コンサルに入る際、あるルールを決めているという。
それは「料理長と一緒に」ではなく、「トップに立って」改革を進めるということ。外部の人間としてメニューを開発するだけでは結果は出ない。朝から晩まで一緒に働き、採用や教育、時には給与査定までやることで、根本から変えていくのだそうだ。
取材時にコンサルしていたのは、群馬県の伊香保温泉にある『晴観荘』。ここでの仕事内容が、ちょっと変わっている。何と板場で働いているのはたった4名で、そのうち3名が外国人。種村さんが責任者に任命した日本人従業員も、種村さんが来るまでは洗い物などの下働きをしていて、調理経験はほとんどなかった。
「辻調出身者には、星や賞を取るエリートがたくさんいます。でも、世の中には料理の勉強をしたくても、できなかった人もいるんです。そんな人にも光を当てたい。出汁の取り方を一から教えたりして、勉強できる場をつくってあげれば、彼らは顔を輝かせて真剣に取り組むんですよ」。
『晴観荘』のコンサルに入って5年。いまでは旅行サイトの口コミでも、料理の評価はかなり高い。ただし、勉強熱心なだけで、この評価は得られない。種村さんは、彼らでもつくれるレシピと方法論を具体化し、さらに料理人もお客様に料理を提供するようレギュレーションを変更した。料理の感想を直接聞けるようにすることで、料理人たちの意識は大きく変わったという。
「料理人としての自覚が強くなり、お客様のために料理をつくることが生き甲斐になったんです。これこそ、私の理想としているコンサルティングだと感じました。洗い物ばかりしていた子が料理の責任者になり、生き生きと働くようになり、そしていまでは自分の家まで建てたんですから、コンサル冥利に尽きるというものですよ。売上回復は過程であって、目的は働く人たちの幸せづくりですから」と種村さんは嬉しそうに語る。
「コロナは、すべての店に同じスタートラインを用意してくれたと思うんです。だから、ここからが勝負。三つ星レストランの味はつくれなくても、丁寧な仕事は誰にでもできる。心を込めた料理と接客は、必ず評価を変えます。人生だって変えられるはずです」。
実際に、それを実現している種村さんの言葉は、説得力に満ち溢れていた。
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