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“日本人が日本で日常食べている料理を「日本料理」と言わないように、タイ人もタイで日常食べている料理を「タイ料理」と言わないのではないか。つまり、「タイ料理」という言葉が出来たのは、タイ料理を非日常の料理として食している外国人がつけた名称であるはずだ”という風にタイ研究家は述べている。最近になってこそ、タイ以外の国でも「タイ料理」レストランを見かけるようになったものの、「タイ料理」を外国人が口にするようになったのはわずかここ50年来の話であって、今でもタイで食されている料理のほとんどが“家庭料理”の域を出ていないのが実情である。まだまだ私たちの知らない「タイ料理」が数多く存在するのは、このような事情によるのである。しかし、どうも理由はそれだけではないようである。
日本人に有名なタイ料理のひとつである『タイスキ』は、1960年頃に登場したまだまだ新しいタイ料理である。この料理は、華僑(中国本土からの移民)向けのレストランを経営していたタイ人が中国料理の“火鍋(フォグオ)”をタイ風にアレンジしたものである。その食事のスタイルは日本の“しゃぶしゃぶ”に似ているが、『スキ』の名前がついているのは、その当時タイで流行っていた「スキヤキ・ソング(上を向いて歩こう)」から名前を拝借したというウソのような実話で、そのあたりがなんともタイ人の“マイペンライ”的な発想である気がする。
上記の『タイスキ』はちょっと極端な例かもしれないが、私たちが一般的に捉えている「タイ料理」という食べ物は、元々が「中国料理」で、そこから派生した「華僑料理」がベースであることは事実である。それは、華人が昔から現在に至るまでタイという国・社会の中心的な構成民族になっているためである。
では、昔からタイという国に根ざした料理は存在しないのかというと、当然存在しているのである。首都バンコクでも旅行で来た外国人がまず口にすることのない多種多様な“郷土の味”的「タイ料理」が、地方から出てきたタイ人を中心に街角で食されている。
先回も少し書かせていただいたが、タイ料理の歴史を見てみると16〜17世紀に中南米原産の唐辛子が欧州を経て東南アジアにまでもたらされて以来、常に諸外国の影響を受けながら「新たなタイ料理」が創造され、発展し続けてきている。また近年における劇的な異国文化の流入で、昔では考え難かったアジア以外の世界中の料理がタイにもあっという間に入ってきた。バンコク市内の外国料理のレストランを巡ると、フランス料理店にはフランス人の、インド料理店にはインド人のという具合にどのお店もその国の方が腕を振るい、タイ人スタッフと協力してお店を営んでいる姿が多く見られる。全く異なる文化同士が重なること(足し算)はなくとも、交わること(乗算・掛け算)は可能で、そこから新たな文化(=料理)が無限に生まれ続けていることを確認することができる。異国の文化に対して寛容(マイペンライ的な良いとこ取り?)なタイ人だからこそ、今後「新しいタイ料理」が次々と出てきてもなんら不思議ではない気がしてならない。
[次回はタイ人の味覚についての予定です。]
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