熱帯に位置しているタイでは、日中の気温が35℃を超えることは珍しいことではなく、また多湿でもあるため非常に暑苦しい日々が年中続く。暑苦しく感じるのは人間だけではなく、他の動植物も同じなのであろうが、特にバンコクでは暑さでバテた犬の性向が悪い。日中の暑い時間帯には、市内の道端、道路、歩道橋と場所を問わず、無数の野良犬がだらしなく寝そべっている姿をあちらこちらで見かける。中には、死んでいるのではないかと思ってしまうような犬もいるが、よく見ると、かろうじて目を開けて「暑(アジー)ーっ」と訴えかけてくる(ようにも見える)。そんな犬たちの大半は首輪をしていない野良犬で、狂犬病の予防をしている気配はゼロ。よく下を見ないで歩いて、うっかり踏んづけてしまい、噛まれでもしたら大変な事になりそうである。実際に、バンコクの街中を歩く時、私は下を向いて歩く癖がついてしまった。街中のいたるところで寝転んでいる野良犬たちを踏みつけないように慎重に避けながらいつも歩いている。もし、踏みつけてしまったら・・・。 その後どうなるかは想像に難くない。
さて、この野良犬たちが一番多く出没する場所は、やはり屋台周辺。タイでは大抵どこの屋台街でも犬がうろついている光景を必ず目撃できるだろう。日中は日差しの強さにだらけている野良犬たちであるが、数多くの屋台が営業を始める夜の時間帯になるとやたらと活動的になる。ただ、この野良犬たちは、盗み食いをしなくても勝手に人間が食事を与えてくれることをしっかり学習しているらしく、おそろしく行儀が良い。こちらが何もしない限り襲ってくる可能性は限り無くゼロに近いのである。当然ながら、タイの人々はこれらの野良犬たちに対してさほど警戒をしていない。
ところで、タイの人々が野良犬たちに食事を与えるのには理由がある。タイ仏教の教えに「生命のあるものは大切に」というのがある。この教えに従い、野良犬にも「可愛そうに・・・」と餌をあげ、徳を積もうとする大きな考え方が根本にある(※注)。かくして、タイではこの野良犬たちを排除するという事は仏教の教えに背くとの考えにつながり、街中から未だ一向に野良犬の数が減らないのである。例え人を襲わないにしても、野良犬が街中を徘徊することは衛生的に良いわけが無い。ただ、タイの人々にそういったことを注意しても、きっと「マイペンライ」という返事が戻ってくるのであろう・・・。
(注:タイ人は何か悪い事が起こると「徳を積んでいなかったからだ」と考え、すぐにお寺に赴き、僧に対してお布施や寄進をし、徳を積む人が多い。
また、日ごろから徳を積んでいれば心が豊かになり、悪い事も起きず、来世も良い人間になれる、というのがタイの宗教(=小乗仏教)なのである。)
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