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日本料理は独自の手段で季節感を大切にするということは、前回もお話しましたが、その続きです。
日本料理が季節感を表現する手段には器もあります。「器は料理の着物」とは北大路魯山人が言った有名な言葉です。美味しく美しく出来上がった料理も、器の選択一つで輝きを増すか、野暮ったくなるかが決定します。材質も陶器、磁器、漆器、竹器、白木、ガラス器、金属器などさまざま、また形も基本の角や丸に加え、楕円形、多角形、扇面形、更には花や葉などの植物や、鳥などの動物の形を写したものもあります。大きさも、ひと抱えほどもある大皿や大鉢があるかと思えば、手の平にすっぽりと収まって、やっと箸先が入るような小さなものまで種類は実に多いのです。器の絵柄を考えても「満開の桜」「梅雨の雨」「棚いっぱいの朝顔」「紅葉の山々」「笹に降る初雪」など、ある特定の時期しか使えない季節絵があります。営業を考える場合、一つの器を何通りにも用いる方が経済的でしょう。しかし、ストレートにその季節を表せるという利点も大きいので、贅沢にも時期限定であえて用いようとするのが日本料理です。同じタイプの器であっても、夏場は薄手で口当たりが軽いもの、反対に、冬場ではぼってりと厚みがあって温かさを感じられるものにするなど、唇や手の触れる微妙な感覚でも季節を感じられるよう、繊細な心遣いも怠りません。また、日本料理は工夫次第で何でも器にしてしまいます。貝殻や植物の葉、蟹の甲羅なども器になります。これも先に述べた季節感を追求するが故の方法です。料理人の遊び心が発揮できるところといえるかもしれません。
そして、日本料理独特の季節の表現方法において、欠かせないものが「かいしき」です。料理に添えて季節感や清潔感を表します。「かいしき」には植物の葉、花、小枝を用いる「青かいしき」と、天ぷら紙のように和紙を敷いたり、立てかけたりする「紙かいしき」の二種類がありますが、多くは「青かいしき」です。楓、笹葉、松葉、羊歯、葛の葉、梶の葉、葉蘭、菊葉などが代表的ですが、これらは冷蔵庫等の保存設備がない時代には、防腐や防臭の作用も兼ねていました。このような習慣のない他国の料理人には「食べられない物を器に盛るなんて」と思われるでしょうが、我々にとっては、庭木や部屋を飾る生け花と同じように季節感を味わうのに大切なものなのです。 |
さて今回は、五節句の一つである「端午の節句」を的に献立を組んでみました。端午の「端」は「はじめ」、午は十二支の「うま」ですから、元はその名の通り、五月最初の午の日に行っていた行事ですが、江戸時代になって五月五日が端午の節句として確立しました。中国から伝わった風習では、この日に摘み取った薬草は特に効き目があり、夏に向かう体にとって薬効があるとされました。また邪気を払うとして菖蒲を浸した酒を呑んだり、菖蒲湯に入ったりします。菖蒲は発音が武事、軍事を重んじる「尚武」と同じことから武家にふさわしいものと考えられるようになり、男子の節句となりました。全体の盛り付けは八ツ橋の掛かった菖蒲池になぞらえました。
酒肴盛りには、一般にも定着している粽(ちまき)と柏葉包みを登場させました。現在では粽は笹葉で包みますが「ちまき」の発音は、元は茅の葉で包んだことに由来し、粽を食べる習慣は中国から伝わりました。昔、中国王族であった屈原(くつげん)が周囲にねたまれて失脚し、泪羅(べきら)という淵に身を投げて自殺をしました。彼の命日である五月五日には竹筒に米を入れた物を投げ入れて彼の死を悼んだようで、このことに因んで粽を食べるようになったとされます。柏葉包みとしては柏餅が代表です。柏の木には樹木を守る「葉守(はもり)の神」が宿るところから、神聖な木とされ、生命力も強いことから男子の節句にふさわしいとされました。
その他、鯉料理も端午の節句の定番です。鯉は滝を登り、竜門を越えると竜に化するとの伝説から、立身出世につながるという意味合いを含んでいます。この献立では鯉に代えて天子(あまご)を用い、大空を泳ぐ鯉幟のごとく尾頭を付けて調理しました。
以上、二回にわたり、日本料理を作る際の考え方を思いつくままに解説しました。時期と材料を考え合わせて調理方法を決定し、器の選択には気配りが大切です。料理の製作意図を常に意識しつつ、提供方法が単調にならぬよう、遊び心を加えた演出をしたいものであります。 |
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