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コラム&レシピ
 スシブームの昨今、欧米人が生魚を食べるのは珍しくない。いつ頃から欧米人が生魚を食べるようになったのだろう、などと思いながら、旬の魚のカルパッチョを楽しんでいませんか。「カルパッチョとは何なの?」と聞かれて、正確に答えられる人は、かなりの料理通。なんとなくイタリア語っぽいからイタリア料理ということは知っているけれど、カルパッチョがそもそもは牛の生肉料理だといったら、驚く人が結構いるのでは。ただの刺身をカルパッチョと信じている人が世の中に多いのは確かだろう。そこで、今回は、カルパッチョについて探ってみることにした。

 イタリアの北東部、ヴェネツィア湾に臨む美しい水の都ヴェネツィアは、約160の運河と400ほどの橋によって結ばれている水上都市である。飛行機ならマルコ・ポーロ空港。鉄道ならサンタ・ルチア駅から一歩ヴェネツィアに足を踏み入れると、自動車はもちろん自転車すら見かけない。島の人々や観光客は橋から橋へとひたすら歩くか、ヴァポレットと呼ばれる水上乗り合いバス(船)かタクシー(モーターボート)あるいはゴンドラを利用して水上を移動する。ヴェネツィアのランドマーク、サン・マルコ寺院の大鐘楼をめざして歩いて行くと、ヨーロッパで最も美しいサロンと言われるサン・マルコ広場が現れる。この広場の西側の船着き場に、1931年創業のハリーズ・バーがある。文豪ヘミングウェイがこよなく愛した店としてつとに有名だが、この店こそがカルパッチョ誕生の地である。食通にはカルパッチョベッリーニという2つの大ヒット商品を生み出したリストランテとして世界的に知られている。こぢんまりとした店なので見落とす人もいるが、二枚扉と窓には大きな文字で『HARRY'S』と書かれているので、これが目印になる。
         
   
サン・マルコ寺院と鐘楼   二枚扉の前に立つ 若き日のアッリーゴ氏  

窓に「HARRY'S BAR」の文字

         
  時は1950年、ハリーズ・バーの常連客であるアマーリア・ナーニ・モチェニーゴ伯爵夫人が病気を患い、医者から当分の間、加熱処理した肉を食べないようにと食餌療法を言い渡された。困った夫人は、ハリーズ・バーの主人ジュゼッペ・チプリアーニ氏に相談したところ、彼が作ってくれた料理が、生の牛フィレ肉を超薄切りにして、マヨネーズベースのソースをカンディンスキー風にデコレーションしたイタリア版の牛刺しであった。若い牛肉は脂肪分が少なくあっさりして、しかもレモンの酸味をほどよく利かせた軽いマヨネーズが、絶妙のバランスで味をまとめていた。伯爵夫人はあまりの美味しさに感激し、大変喜んだそうである。 その頃、ヴェネツィアで開かれていた絵画展でルネサンス期の画家、ヴィットーレ・カルパッチョの作品が展示されていた。カルパッチョの作風は光り輝くような赤と白の色遣いが特徴で、ジュゼッペ・チプリアーニ氏は牛肉の赤とマヨネーズの白を彼の作品にだぶらせ、カルパッチョの名前を取って料理名としたのである。
 かくして、1950年から「カルパッチョ」の歴史が始まる。ヴェネツィアではそれまで生肉を食べる習慣がなかったところから、非常に独創的であり、しかも、牛肉のフレッシュな旨味を味わえるということで、一躍脚光を浴びることになる。昨今、カルパッチョというと魚のカルパッチョを思い浮かべる方も多いかと思うが、そもそもカルパッチョの始まりは牛肉だったのである。。
     
 
ヴィットーレ・カルパッチョ(Vittore Carpaccio 1465年頃〜1525/1526年)はヴェネツィア生まれの画家。
代表作は1495年の『聖ウルスラの夢』、1515年の『騎士の帰還』。
  ハリーズ・バーのカルパッチョ
     
   
ヴァシリー・カンディンスキー(Kandinsky1866年〜1944年)は、ロシア生まれの画家。
抽象芸術の先駆者で20世紀を代表する画家のひとり。
   
     
 食餌療法なのに牛肉? さすがに肉食文化の国イタリアらしいと思うが、これは日本とイタリアとの牛肉の質の違いに理由がある。日本の牛はきめこまかく、脂がのった、いわゆるサシの入っている肉が国産牛の代名詞。一方イタリアでは成牛になる前の、若い牛を食用にすることが多い。したがって、日本の牛肉より脂肪がはるかに少なく、カロリーも低くて消化に良い。写真の肉の状態を見ていただくと分かるが、霜降り肉ではなく、脂身のほとんどない赤身肉なのである。最初は牛フィレ肉を使っていたが、2代目のオーナー、アッリーゴ・チプリアーニ氏(アッリーゴは英語のハリーにあたる)に代わってからは、彼の好みで牛ロース肉を使っている。25年前に私がハリーズ・バーで働いていた頃、肉屋の親父が大事そうにカルパッチョ用の牛ロース肉を2〜3本担いで持ってくると、シェフが肉のど真ん中をナイフで切り開き、少しでも脂が入っていると、傷を付けた肉なのに平気で突き返す、そんな光景を今でも思い出す。限りなく赤に近い最高級の牛ロース肉をスライサーで薄切りにしているのが、ハリーズ・バーのカルパッチョである。
(参考までに一皿、7000円は覚悟していただきたい)。

 これ以降、カルパッチョがイタリア全土に広がっていくが、それぞれの土地で豊富に手に入る材料を用いたカルパッチョが生まれていく。肉と相性がよいということでマヨネーズ系ソースの代わりに、薄く切ったパルメザンチーズを載せる流行もあったが、ルーコラ、アーティチョーク、シャンピニョン、ポルチーニ茸、白トリュフ等を使った、ボリュームのあるサラダ仕立てが現在の主流である。サラマンドルで軽く火を通し、加熱したカルパッチョも見られる。また、カルパッチョが広まるにつれて、昔から生魚を食べる習慣がないイタリアでも、マグロやカジキなどの魚をマリネや軽く燻製にした、生魚のカルパッチョも見かけられるようになった。
     
 
     

 このイタリア生まれのカルパッチョが、なぜ日本で人気があるのか? カルパッチョはシンプルに素材の味を楽しめ、刺身好きの日本人の味覚に合い、日本の伝統食と相通じるところから急速に浸透したのではないか。刺身を少しアレンジするだけで、和食がイタリアンに早変わり。盛り付けとソースの工夫でいろんな味が楽しめ、バリエーション豊かなカルパッチョが出来上がる。 家庭でも簡単にできるし、見た目も豪華な料理となる。
 日本では、白身魚や帆立貝、タコ、イカ、野菜類からフルーツまでを薄くスライスして、オリーブオイルやマヨネーズなどで調味したものを“カルパッチョ”と総称している。
 
昨今、カルパッチョは料理名から、牛肉に限らず「薄く切った生もの」を意味する調理法へと変化したようである。旬の食材も取り入れた“なんでもカルパッチョ”は、今やイタリア料理店に限らず、フランス料理店やビストロ、カフェや和食店までをも含む、日本中の料理店で食べることができる。刺身に洋風ソースを添えれば『カルパッチョ』、と日本ではかなりアレンジされてしまっている。アレンジをするのは悪くはないが、元祖(もとの形)を知った上で、元祖を発展させる形でアレンジするのが良いと思う。
 ちなみに、カルパッチョも私も1950年生まれである。

 
 

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