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コラム&レシピ
海外からのレポート 来自北京 vol.2 鈴木稔(辻調理師専門学校34期生・辻調理技術研究所7期生)
〜「北京から」の意味。このコラムでは、実際に北京で暮らしている中で感じたことなどを綴っていきます。
分野も食の情報だけでなく、広く北京の今を伝えていくように努めます。〜
 
「安心・安全をお届けします」 食品安全問題に立ち向かう企業
 
第五届日本業務食材展示会には
多くの企業が参加、商路開拓を目指す
 
河北省秦皇島 オリンピック・スポーツセンター・スタジアム

日系企業の管理体制が今こそ力を発揮、
安全・安心をアピールしていきたい」

意欲的に話す

 
日系スーパーなどへ海苔を販売。
「食の安全問題は今のところ販売に
大きな影響を与えていない」とのこと
 
「食の安全問題では
相互の信頼関係が前提となり、
その上での管理体制だ」と話す
    私たちが日々健康に生きるための基本的条件、呼吸して、ものを食べる。食をめぐる問題は、生存にとってもっとも基本的な問題である。故に食の安全を脅かす問題は、場合によっては、社会の安定した発展を根底から覆す問題にもなりかねない。

  古今東西、食品の安全をめぐる問題は頻繁に発生し後を絶たない。日中間でも、食の安全問題が、毎日のように報道されている。すこし逆説的な言い方をすれば、経済成長に伴い国民の生活水準が急激に向上している現在、より多くの消費者が毎日とる食事に対し、安価よりも“安全、安心”なものを望むようになったのは、消費者がようやく食の安全問題を意識できるようになったとも言えるかもしれない。

 そんな中、中国に進出している日系の食品メーカーは、いかに中国の消費者に“安全”を訴え、“安心”して自社の製品を食してもらうのか。11月6日、長富宮飯店の一室で開催された「第五届日本業務食材展示会」に参加した企業の販売担当者に話を伺った。



安全の確保の難しさ

 完成品、半完成品などの加工食品が一般家庭に流通している現在、単に、生産者から野菜や肉、魚を買い調理し、消費させるだけでなく、生産者から、流通を経て、加工工場で食品が加工され、消費者の口へと運ばれる。さらに流通が国をまたがることなどが加わると、食品が、人の口までの経路、経緯は大変多様化、複雑化しており、食の安全確保は以前と比べると格段に難しい問題となっている。そしてその安全の確保に必要な取り組みやシステムとして、事故後の処理以外にも、有毒物質の評価・管理等といった、食の安全に影響を与える要因について事前にリスク管理を行うことが、すでに国際的な共通認識となっている。

 今年はじめに起こった「餃子中毒事件」から、オリンピック後に相次いで発覚した「インゲン豆事件」、「カップラーメン事件」、牛乳および乳製品に混入された「メラミン」をめぐる一連の問題、日本での「ハイチュウ」の回収事件などは、食品の安全確保の難しさが伺える。




生産、加工過程での異物混入の可能性は極めて低い

 「基本的には、生産、加工過程では、異物が混入することはまずありません」。 日清製粉グループの一つ、新日清制粉食品(青島)有限公司・営業開発部部長の高橋さんをはじめ、食品関連に従事している人の多くはこう話す。

 消毒や従業員の健康管理など、生産現場や加工工場内での衛生管理は、当然ながら徹底されているだろう。ただ、局所的な安全を訴えてももちろん説得力はない。流通時や、原材料が生産される段階での管理が当然ながら必要となってくる。

 新日清制粉食品(青島)有限公司をはじめ多くの企業が、生産から店頭に並ぶまでを徹底管理するシステム「トレーサビリティ」の確立を目指している。同社もこのトレーサリビティにより、徐々に顧客からの信頼を獲得しているそうだ。

  ただ食品への異物混入事件などが後を絶たない現実、そして、このトレーサリビティを完全に実現するには、担当する者のモラルに依存している分、管理システムとしては、まだまだ“隙間”があり、不十分といわれても仕方が無いかもしれない。(解説参照)もし、消費者に「“安全、安心”を届ける」指標として、完全なトレーサリビティを確立することができたら、現在の食の安全問題から端を発する不信感を払拭する大きなきっかけとなるだろう。

  また厳格な検査が個人単位ではできないレストランなど現場ではどういった対策をしているのだろうか。外国人客で賑わう北京の日本料理レストラン「隠泉(はつね)」では、調味料の調達など、信頼できる業者からしか仕入れないようにしているとのこと。所謂“顔の見える”関係を築き、安全確保に努めているそうだ。

国民感情も変化の兆しが
食も官民協力から国際協力の時代へ


  残留農薬を取り締まるポジティブリストが2006年から施行されてからは、外国から輸入される食品に対して厳しいチェックを課せられるようになるなど、日本国内でも食の安全問題が大きく話題となった。(解説参照)そして2008年日中間での「餃子中毒事件」は、再び食の安全問題を世間に意識させただけでなく、“毒餃子”事件と報道されるまで事態が悪化、2006年の安倍元首相の訪中後改善されてきた日中関係に、再び暗雲を落とす結果となった。

 「現在、食の安全問題に関して、中国、日本ともに、お互いに相手国を疑っているのかもしれません。少なからず、そういう心理はあると思います」。(味滋康(中国)商業貿易有限公司・営業部・張静さん)

  餃子中毒事件では、問題そのものの解決に向けた報道よりも、とかく中国(もしくは日本)を批判する論調が、国民感情を煽り、問題の本質を見失う結果となったのではと、多くの専門家たちが指摘している。

  ただ、そういった国民感情にも変化が見られる。2008年の5月、胡錦濤国家主席の訪日、四川大地震の際の日本の社会貢献が中国社会で広く認知された結果、対日感情も再び好転しているというデータ結果もある。
 
対日好感度と日中関係評価
対日好感度と日中関係評価
(データ出所:北京世研信息諮詢有限公司、11月3日フォーラムより)
 また雑感ではあるが、インターネットなどによる日本企業の安全問題への書き込みも、一律に日本製品のボイコットを扇動するような内容は、少なくなってきているように思う。理性的な日中関係を形容する所謂「成熟した」日中関係構築の兆しが見え始めたと言えるだろう。

 完全なトレーサリビティ実現の難しさに考えを及ぼすとき、今後は民間と行政の協力だけでなく、国際的協力を以って、食の安全問題に臨まなければならないのではないだろうか。

 餃子中毒事件では実現できなかった国際協力による事件解決、日中間での「君子協定」を今度こそ実現し、両国間共同で国民の健康と食の安全を守るシステムの構築を切に願う。
 
解説
トレーサビリティ:
 トレーサビリティは、対象とする物品、およびその部品や原材料の流通履歴を確認できることである。対象となる物品を、観測しうる物理量によって定量的に記述された記録によって構築される。物理量とは、時刻、重量、名称、物品に添付された記号(バーコードなど)等々によって記述される。物理量の計測結果が一定でなかったり、添付された記号などが故意・過失によって紛失等することは、物流におけるトレーサビリティの難点であり、トレーサビリティを構築する人間のモラルによって、トレーサビリティの信頼さが決定されるとも言える。
 現在、完全なトレーサビリティ実現の手段として、ICタグが経済産業省を中心とした官民合同で研究開発段階にある。また食品(特に牛肉・鶏卵等)は、農林水産省がトレーサビリティ普及に向けた活動を行っている。実際の普及までのハードルには、主にコスト面での課題に因る所が大きいが、ICタグを利用したトレーサビリティに関しては、社会的に浸透すれば1つ数円台にまで価格は低下すると見られている。
 また日本語で単に「トレーサビリティ」という場合には、一般に工業製品や食料品など、市場を流通する様々な商品に関連して、これら物品が遣り取りされ、最終的に販売されるところまでなどを指す傾向が強い。この場合では、農業や漁業といった食品産業における第一次産業や製造業など第二次産業から商業活動など第三次産業までにおけるトレーサビリティに限定されている。
  日本では1990年代後半から、遺伝子組み換え作物の登場や、有機農産物への人気が高まり、食品アレルギーやBSE問題、偽装表示、産地偽装問題などの発生に伴う、食品の安全性や、消費者の選択権に対する関心が高まり、食品分野でのトレーサビリティが注目されるようになった。


ポジティブリスト:
 正式名称は「残留農薬等に関するポジティブリスト制度」と言う。2003年の食品衛生法改正により、現在設定されている農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(以下、農薬等)の残留基準を見直し、基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度である。従来の残留農薬に関する規制の考え方は所謂「ネガティブリスト制度」であり、様々な農薬の内、人体や環境等への悪影響が懸念されるものを禁止もしくは規制し、それら以外の農薬は自由使用とされた。 つまり、残留基準が設定されていた250種の農薬と33種の動物用医薬品以外の農薬等が残留していても、基本的に販売禁止などの規制はなかった。
  しかし、化学工学とともに様々な新しい農薬が開発されてきたこと。 それらに対する生物学的な安全性の知見は必ずしも追いついていない現状があること。ネガティブリスト制度である限り、規制は後追いにならざるを得ないこと。加えて、食の安全性に関する意識の高まり、従来の制度が時代遅れではとの指摘を受けた。

筆者/鈴木 稔
大阪あべの辻調理師専門学校1994年卒業 34期生
辻調理技術研究所1995年卒業 第7期生


卒業後、同校中国料理技術職員として勤務。
日本での在勤中には、サッカー協会の審判員としてなみはや国体(大阪開催)への参加経験もある。
2003年3月同校を退職し中国北京へと向かう。
語学留学の後は、日本語雑誌『北京TOKOTOKO』、『SUPERCiTY BEiJiNG』編集部にて、現地の日本人を対象にした情報誌製作に従事、現在は、中日2カ国語によるコミュニケーション専門誌『中日伝播』編集部に勤務。
日本語ページ、主に日系企業取材を担当。

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