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コラム&レシピ
セパージュを飲む
vol.2 カベルネ・ソーヴィニヨン種(後編)

 ボルドーでは、しかし、カベルネ・ソーヴィニヨンだけを単体でワインにするということは、滅多にない
 ボルドーの涼しい気候と温和な太陽の下では、この品種がジャムのような香りになることはまずありえない。
 となると、単独では、魅惑的な果実味に欠けた、「気品があるのは分かるんだけどさあ、ちょっとお高くとまってない?」というようなワインになりがちなのだ。
 そこで、マルベックとかプティ・ヴェルドといった、果実味のチャーミングなワインと合わせてバランスを取るのである。もちろんカベルネ・フランと合わせることもあるけれど、その場合は意味合いがちょっと違っていて、晩熟性のソーヴィニヨンが雨にあたってダメになってしまった時の保険として、早めに完熟する兄弟(実は親)品種のフランを植えているのだと考えたほうが正しいと思う。
 カリフォルニア、チリ、アルゼンチンなどで、この品種を単独で使う傾向が強いのは、気候の影響で、放っておいても果実味が充分以上に乗るからである。
 なお、同じような気候に恵まれていても、オーストラリアでは、コート・デュ・ローヌ地方原産のシラーという品種とブレンドすることが多い。もっともこれは1950年代にこの国で本格ワインがつくられ始めたころには、シラーの比率が圧倒的に高く、カベルネ単独ではワインにならないもので、とりあえず混ぜてみたら、とっても良いものができてしまい、いつの間にか、それが伝統になったのだというような、ま、言ってみれば「行き当たりばったり」の事情であったらしい。
 実は、19世紀のボルドーでは、赤ワインにシラーを混ぜるという伝統があった。シャトー・ラトゥールではシラーを栽培していたし、シャトー・ラフィットでは、あろうことか、イギリス向けの樽に、わざわざローヌから取り寄せたシラー種のワインを混ぜていたというから、びっくりしてしまう(だって、ニセモノじゃん!!)。
 というわけで、ぼく自身は、オーストラリアのリンデマン社という最大手で上記の説を聞くまでは、ボルドーの古い伝統が(ワイン文化という意味では辺境の)オーストラリアに残ったのだろうという、文化人類学の定型に近い仮説を立てていたのだけれど、どうも、そんな高尚なことではなかったらしいのだ。
 ちょっぴり残念だったけれど、きっとそっちのほうがずっとオーストラリアらしくて、大らかでいいのかな、なんてことも最近では思っている。
 さて、赤ワインというものは、軽くフルーティなワインにしたい時には、低温で発酵させ、発酵がすんだら早めに絞るといい。
 反対に重厚なしっかりした味わいにしたいときには、発酵温度も高めに設定し、発酵終了後も皮と種を長く漬け込んで、そこからの成分の抽出を期待することになる。
 最近では、色と香りをたっぷり引き出すために発酵前に60度くらいに加熱したり、発酵タンクをロータリー式にして、ぐるぐる回転させながら発酵させるような方法も出てきていて、日常ワインクラスではとても良い成果をあげている。しかし、あくまでも日常ワインで、ということにすぎない。
 本当にいいワインは、やっぱり伝統的な製法からしか生まれないように思う。
 最後に樽についても一言。
 樽材の産地としては、大きくフランス産とアメリカ産に分けられる。
 フランス産が、バニラ系の香りなのに対し、アメリカ産は、ココナッツやお菓子のミルキーみたいな甘い香りを特徴としている。
 さらに、樽の内側の焦がし方によって、香りの方向はまったく異なってくる。
 トーストが軽いときには、生木を思わせる、多少辛みを帯びた香りが立ち、しっかりと焦がすとチョコレートやココア、葉巻などにそっくりな香りがワインの中に溶け出してくる。一般的にはその中間あたりを選ぶことが多いのだけれど、たとえば、1990年代半ばまでのシャトー・ムートンは、常にヘビー・トーストのチョコレートのような香りを特徴としていた。
 なお、最近の、新樽ばかりを尊重する傾向には、ひとこと申し上げておきたい。
 ワインの原料は、あくまでも葡萄で、樽ではない。
 樽は、あくまでも葡萄の個性を引き立たせるための脇役である。
「原料は樽ですか?」
 と聞きたくなるようなワインを絶讃するワイン評論家たちには、常々首を傾げているところである。
 ま、それも好みの問題だと言われれば、それまでのことなのだけれど。
ペンフォールド カベルネ シラーズ
(ペンフォールド社)
オーストラリア/ バロッサ・ヴァレー、マギルヴィンヤード、クナワラ地区

オーストラリアを代表する名醸造元ペンフォールド社がつくっている、カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーズのブレンド・ワイン。熟成にアメリカン・オーク製の「新樽」と、オーストラリア・ワインの最高峰「グランジ」に使ったアメリカン・オーク製の「古樽」を使用。この国ならではのなめらかでリッチな果実味と、きめ細かなタンニンが、アメリカン・オークに特有の、ココナッツやバニラアイスクリームを思わせる甘い樽香とマッチして、独特の風味を醸し出している。
リンデマン BIN 45 カベルネ・ソーヴィニヨン
(リンデマン社)

オーストラリア産

やはりオーストラリアから、日常楽しむには、ちょうどいいワインを紹介したい。本文中にもふれたように、回転式の発酵タンクを使用し、皮からのフルーティな香りをスピーディに引き出したら、その場で絞ってしまい、あとは白ワインと同様に低温で発酵させる。こうすることにより、皮からの香りはたっぷりあり、種からの渋みはほとんどない、飲みやすいワインが生れる。ただし、畑での収穫量も多いので、深みとか凝縮味まで期待してもらっては困る。
フェッツァー バレルセレクト カベルネ・ソーヴィニヨン
(フェッツァー社)

アメリカ/カリフォルニア州 / ノース・コースト

カリフォルニアで唯一、ワイナリー内に樽工場をもっているフェッツァー社が、「バレルセレクト」という名前の通り、樽にこだわってつくっている上級品。完熟したカベルネ・ソーヴィニヨンの骨太な力づよさをまろやかに包み込むために、あえてフレンチオーク100パーセントで24ヶ月という長期熟成を行っている。樽の焦がし方はミディアム。長期熟成の割りに樽香が突出しないのは、果実の凝縮味が充分にあるためで、こういうワインは、長い熟成の世界も楽しめる。


山田 健(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。

■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」後編
■Vol.4「メルロ種」前編
■Vol.4「メルロ種」後編
■Vol.5「リースリング」前編
■Vol.5「リースリング」後編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」前編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」後編
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■Vol.21「ピノ・グリ(ピノ・グリージョ)/トレッビアーノ(ユニ・ブラン)」
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