イタリアを代表する葡萄品種で、有名なキャンティやブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、サンジョヴェーゼ・ディ・ロマーニャなどが、すべてこの品種からつくられている。
ただし、ピノ・ノワールと同じく、遺伝的な変異が非常に激しい品種で、同じサンジョヴェーゼという名前がつきながら、「本当に同じ品種かね」と首をかしげたくなるほど、多種多様な様相を呈している。
原産地は、おそらくはトスカーナ地方だと言われており、それだけに、変異種もくっきりしている。
キャンティ地区の葡萄はサンジョヴェーゼ・ピッコロと呼ばれており、おそらく、この品種がほとんどのサンジョヴェーゼのベースにある。
ピッコロの名の通り、粒の小さな品種で、プラムを思わせるチャーミングな果実味と酸味、わずかに青みを含んだちょっぴりキメの粗いタンニンを特徴とする魅力的なワインを生み出す。
かつては、サンジョヴェーゼ100パーセントではキャンティを名乗ることが出来ず、最低でも10パーセントはカナイオロなどの伝統品種をブレンドするように義務づけられていたが、現在は法律が改正され、75パーセントから100パーセントまでという幅がもたされており、100パーセント・サンジョヴェーゼのキャンティも誕生している。なお、同じ時期に(スーパー・ヴィノ・ダ・ターヴォラの成功に刺激された結果)、キャンティでは10パーセントまで、上級のキャンティ・クラッシコでは15パーセントまで、カベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドしても良いという法改正も行なわれ、その結果、カベルネ・ソーヴィニヨンを使用する醸造元も増えている。「伝統保持」という考え方からは問題がありそうだが、味わいの結果だけを見ると、このふたつの品種の相性は、間違いなく良いと思う。
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ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ地区の葡萄は、ブルネッロ種あるいはサンジョヴェーゼ・グロッソ種と呼ばれており、19世紀の後半に、この地区の最も有名な生産者のひとつ「ビオンディ・サンティ家」の畑で発見された。
グロッソの名前の通り、粒の大きい葡萄で、普通、粒が大きいと皮に対する果汁の割合いが多くなってしまうため、風味の薄いワインになりがちなのだけれど、この葡萄の場合には、皮がしっかりと厚いため、ピッコロ以上にコクのあるフルボディのワインが生み出される。
果実の風味も、プラムというよりもプルーンに近い練り上げたような印象になり、タンニンもきめ細かく、しかも力強く凝縮されており、文字通りグロッソなワインになる。熟成の力も大きく、歳月を経るにつれ、毛皮を思わせるような重厚な香りを身にまとうようになっていく。
ちなみにブルネッロ・ディ・モンタルチーノを名乗るワインは、100パーセント、この葡萄を使用していなければならない。
ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ地区の葡萄は、ブルネッロ種と同じくサンジョヴェーゼ・グロッソ種に属するが、特にプルニョーロ・ジェンティーレと呼ばれている。
粒の形が、球形ではなく、ハート型をしている変わった葡萄で、キャンティ同様、カナイオロ種や白葡萄のマルヴァジア種、トレビアーノ種などとブレンドされることが多い。
残念ながら、地域名に「ノビレ」つまり「高貴な」という形容詞をもっているほどに高貴な印象のワインに出会ったことはない(「だったら、これを飲め」というワインをご存知の方、ぜひご教授を賜りたい)。
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さて、トスカーナ地方のワインは、伝統的に、スラヴォニアン・オークの大樽で熟成されてきたのだが、近年はフレンチ・オークの小樽の使用が流行している。実際、サンジョヴェーゼとフレンチ・オークの相性はとてもよい。
フレンチ・オークに特有のヴァニラ香や、内側を焦がした樽から生まれるチョコレートやココアを思わせる甘やかなニュアンスは、とかく酸味や青いタンニンが前に出がちなサンジョヴェーゼの短所を補い、まろやかで、伸びのいいワインに変えてくれる傾向がある。
ただし、本来の酒質が弱い場合でも、樽香のお化粧でごまかせてしまうことがよくあるので、あまりに樽に頼るのは、どうかと思う。
伝統的な大樽熟成によるワインの魅力も、忘れるべきではない。たった今、ぼくは不用意にも「サンジョヴェーゼの短所」と書いてしまったが、それはそのまま「サンジョヴェーゼの長所」でもあり、樽香のほとんどない大樽を使って上手につくられたワインの場合には、他の葡萄からは絶対に得られない、かけがえのないこの品種の個性を楽しむことが出来る。
そういうワインに出会った時、ぼくらは、「伝統」の大切さというものに、あらためて目を開かされるのである。
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キャンティ・クラッシコ リゼルヴァ・ドゥカーレ (ルフィーノ社)
キャンティ・クラッシコ地区における最大の葡萄園主として知られるルフィーノ社の上級品で、リゼルヴァ・ドゥカーレとは「公爵のためのとっておき」くらいの意味。伝統的な大樽熟成によるキャンティ本来の風味を楽しむには最適な一瓶と言えるだろう。なお、さらに上級品の「リゼルヴァ・ドゥカーレ・ゴールド」の方は、フレンチオークの小樽熟成を行っている。「ゴールド」は、葡萄自体の凝縮味も格段に優れているので、単純比較は出来ないが、大樽と小樽の風味の違いを見るには、かっこうのサンプルである。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ イル・グレッポーネ・マッツィ (ルフィーノ社)
モンタルチーノの銘醸畑イル・グレッポーネ・マッツィ産。このワインも、伝統的な大樽熟成にこだわっているため、今や主流になりつつある樽香を効かせた大柄なブルネッロ・ディ・モンタルチーノに比べると、やや細身な印象を受けるかもしれない。しかし、葡萄本来の力は充分に備わっており、豊かな果実香と熟したタンニン、練り上げたような酸味のバランスはとてもよく、長い熟成の世界を楽しめる。
ヴィノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ (ルフィーノ社)
やはり大樽で熟成されたワイン。ルフィーノ社のワインは、決して偉大ではないものの、常に安定したクリーンな品質を保っており、コストパフォーマンスもいい。このワインも、赤や黒の果実のジャムを思わせるような甘い果実香と、やさしく心地よいタンニンを前面に出しており、単純に飲みやすく、おいしい。日常ワインよりちょっと高級なワインを開けたいような気分の時にちょうどいいだろう。
文
山田 健
(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』
というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。
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