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コラム&レシピ
セパージュを飲む

 チリワインブームの後を追うようにして、アルゼンチンワインに脚光が当ったのは、まだほんの10数年前のことにすぎない。
 
マルベックという葡萄が、100年以上にわたって押し込められてきた歴史の蔭から、突然ぼくらの目の前に現れたのは、まさにその時のことだった。
「アルゼンチンの高級ワインといえば、やっぱりマルベックですよ」
 さっそく現地を訪れたぼくに、アルゼンチンのワイン飲みたちは、一様にこの葡萄に寄せる偏愛を語った。
 正直なところ、ぼくは、わが耳を疑ったものだった。
 確かにマルベックは、19世紀の半ばまで、ボルドーワインの主役のひとりだった。
 当時の大スターは、カベルネ・ソーヴィニヨンではなく、マルベックだったと言っても過言ではないほどだったのである。
 ところが、蒸気船の性能が向上し、海上交通のスピードが格段にアップしたのが、この葡萄にとっての不幸になってしまった。海外からウドンコ病やベト病、フィロキセラという、葡萄にとって致命的な病気と害虫の三点セットが(海上で死なずに、生きたまま)侵入し始めると、この葡萄は極端なまでの抵抗力のなさを露呈してしまい、急速にすたれていったのだ。
 今日のボルドーでは、多くてもほんの数パーセント使われればまし、というくらいにまで凋落してしまっている。
 フランスで、かろうじてこの葡萄が主役を張り続けているのは、南西部地方カオール地区の赤ワインだが、残念ながら、カオールという地方そのものが、かつて「黒ワイン」と呼ばれ、フランスの赤を代表する名酒だった時代のような品質と名声を保っておらず、一部のマニアックなファン向けのワインという印象を否めないというのが、つまりこの葡萄のフランスでの現状なのである。
 一方、アルゼンチンのマルベックは、どのような状況にあるのだろうか。
 この国のマルベックを今日の隆盛に導いたのは、1901年にスペインのナヴァーラ地方から移民でやってきたレオンシオ・アリス氏と、その子孫たちだった。
 初代レオンシオ・アリス氏が、どのような経緯からマルベック熱にかかったのかは、残念ながら伝わっていないが、アルゼンチン最高の銘醸地であるメンドーサ地方のルハン・デ・クージョ地区に居を定めた彼は、マルベックをメインとするヨーロッパ系の高級葡萄の栽培を始め、自らのマルベック熱を子孫たちにきっちりと感染させた。
 そして三代目ラウル・レオンシオ・アリス氏の代に、ルハン・デ・クージョ地区は、アルゼンチン最高の銘醸地であると公式に認定され、最初のDOC(原産地呼称統制)畑に指定されたのである。指定葡萄品種は、もちろんマルベックだった。つまり、マルベック以外の葡萄を植えても、ルハン・デ・クージョの名前を名乗ることはできないということだ。
 しつこいようだが、つまりこの時点で、マルベックは、「公式に」この国の最高品種として認定されたということなのである。
 言うまでもないことだが、この国のマルベックを代表するのは、もはやレオンシオ・アリス社だけではない。
 彼らの後を追う形で、実に意欲的な醸造家たちが、次々に素晴らしい名品を生み出している。中でも注目すべきは、ニコラス・カテナだろう。近年、シャトー・ラフィットのエリック・ロスチャイルド男爵とのジョイントベンチャーで、カテナのCAとロスチャイルドのROをあわせてCAROという、「そのまんまじゃん」というような名前のブランドを立ち上げて注目を集めているが、個人的には、カテナ本来のワインの方がインパクトがあって面白いと思っている。
 さて、この国のマルベックを味わう時、ぼくらは、この品種がかつてボルドーで主役を張っていたという事実に、充分納得がいくはずだ。ベースにあるのは、ブラックチェリーを思わせる一種独特な酸味と穏やかな果実味だが、優れた畑の完熟した葡萄の場合には、その上に、カシスやブルーベリーを連想させる甘やかな果実香と、きめ細かく力強いタンニン、極めて重厚で、かつソフトな口当たりといった、実に魅力的な個性が加わってくる。しかも、長い熟成も期待できるのだから、そうとうな優れものだと言っていい。
 ただし、この国の強烈すぎる太陽のせいだろう――果実味はフルーティというよりも、煮詰めたジャムのような甘いニュアンスになりやすいし、後味に「気品」というよりも「朴訥」な風味が漂うのも、たぶん品種本来の個性ではなく、お国柄なのだろうと思う。
 ただし、そういうこともすべて含んで、この国のマルベックは、一度は経験しておく価値がある。新しい個性の誕生と、今後のいっそう魅力的な展開に、心より、エールを送りたいと思う。
 
ルイジ・ボスカ マルベック 特別瓶熟
(レオンシオ・アリス社)

マルベックの本家本元といっていいレオンシオ・アリス社の自信の一本。アルゼンチンのマルベックの底力を経験するのには、最上の一本だと言っていいだろう。「特別瓶熟」の名の通り、一部のワインを醸造所の奥深くに特別に貯蔵。完璧な熟成を待ってから世に送り出すという贅沢な方針でつくられている。長期熟成された逸品ならではのなめらかな深みと、この国のマルベックに共通する素朴な味わいとが、一種独特なハーモニーを醸し出している。
カテナ マルベック

今、アルゼンチンで最も注目を集めている名醸造家ニコラス・カテナが、従来のこの国のマルベックのイメージを、180度ひっくり返してつくり上げたエレガントなワイン。トップノートにはスミレの香り。口に含むと、ラズベリーやカシスを思わせる艶やかな果実味と、しなやかで透明感のある酸味が魅惑的にひろがり、きめ細かく豊かなタンニンと、適度に抑制された樽香とのバランスも極めていい。一見細身でありながら、しっかりとした骨格も秘めており、長い熟成も期待できる。目隠しで飲んだら、品種も国も絶対に当たらないだろうというのが、難といえば難だが、「これこそが、新しいアルゼンチンのマルベックの未来なのだ」と言われれば、そうかもしれないと納得したくなるほどに、よく出来たワインである。
シャトー・ド・ケー
(カオール)

カオール地方のワインは、かつての全盛期には「黒ワイン」などと呼ばれるほどの濃厚さと、強烈なまでの力強さを誇っていたようだが、今はそういうワインは「はやらない」と判断しているのか、現在つくられているワインは、たいていがミディアムボディで、ブラックチェリーやプラムを思わせるなめらかな酸味・果実味と、ほのかなほろ苦さを特長とする飲みやすいワインばかりが目につく。このワインも、そういう「今日的」なタイプの味で、残念ながら「このワインじゃなきゃダメ!!」という強い存在感には欠けている。ま、これはこれで、充分においしいから、文句はないのだけれど…。


山田 健(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。

■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
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