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マスカットの香り漂う親しみやすいワイン
ミュラー・トゥルガウ |
この葡萄からのワインは、日本人にとっては、とてもなじみ深い香りがする。かの生食用葡萄の女王「マスカット・オブ・アレキサンドリア」にそっくりな、グリーニッシュですがすがしい香りをもっているのである。
もっとも、日本人にとっては高貴なその香りが、ヨーロッパではあまり評価されない。ヨーロッパ人は、あまり葡萄を生食する習慣がないため、同じマスカット・オブ・アレキサンドリアでも、日本のように開花後の房を刈り込んで大粒の葡萄に育てるような面倒なことはしない。
そして、普通に育てられ、普通に完熟したマスカット・オブ・アレキサンドリアには、緑の香りはなく、むしろ白い花や蜂蜜を思わせる甘い香りになるのである。つまり、日本人が「マスカット香」として珍重する香りは、ヨーロッパ人の常識の中にはないのである。
そういうわけで、ミュラー・トゥルガウを使ったワインは、ヨーロッパでは、さほど高く評価されることはなく、気軽な日常ワインという位置づけになる。したがって、この葡萄品種を堂々と名乗っているワインは少ない。実際にはドイツの有名なリープフラウミルヒやシュヴァルツェカッツのかなりの部分が、この葡萄主体でつくられているのだが…。
一方、日本でワインをつくるなら、この葡萄は案外狙い目である。現に、北海道の一部では、実に日本人好みのいいワインが誕生しつつある。将来が楽しみというものである。 |
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さて、この葡萄は、1882年に、スイスのトゥルガウ州で、ヘルマン・ミュラー博士によって育出された交配種である。
博士はリースリング種の花から雄しべを取り除き、シルヴァーナー種の花粉をつけて交配したつもりだったようだが、最近の研究によると、どうやら彼の実験は失敗だったようで、実態は両親ともリースリングであるとか、いや、父親はグートエーデルだ、いやそうじゃない、遺伝子検査の結果マドレーヌ・ロワイエに間違いないなどと、まことにかまびすしい。
いずれにせよ、博士が仲人をしてつくった新品種の中でも最高の自信作(なにしろ、自分の名前をつけたくらいなのだ)は、なんと、リースリングが勝手に他の葡萄との間につくった不倫の子だったわけだ。 |
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父親が誰であるにせよ、この葡萄には母方のリースリングのような気難しさはなく、冷涼な気候でさえあれば、土地を選ばずに栽培できる上、収穫時期も早く、収穫量も多い。
しかも、親しみやすいフルーティな香りと、多少輪郭はぼやけるものの、それなりにみずみずしい酸味をもち、ほのかな甘口に仕上げると、結構楽しめる味になる。ワインというものは、常に最高級である必要はなく、日常楽しめる手ごろな価格のものにも充分価値がある。そういう意味では、もう少し高く評価されてもいい葡萄なのではないかと思っている。 |
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