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コラム&レシピ
セパージュを飲む
vol.2 カベルネ・ソーヴィニヨン種(前編)

 いわずと知れたボルドーを代表する名品種である。
 かのシャトー・ラフィットや、ラトゥール、マルゴー、ムートンといった綺羅星のような名シャトーが誇る、「力強い骨格」と「繊細さを極めた気品」は、まちがいなくこの品種に由来している。
 もっとも、この品種の「名声の歴史」は、そんなに古いわけではない。
 19世紀後半に、ボルドーの葡萄園がフィロキセラという、葡萄の根を食い荒らす害虫で壊滅したことがあった。その後、多くの葡萄園は、アメリカ種の台木にヨーロッパ種の穂木を接ぎ木することで再建されたのだが、ところがこの時に、それまでの主役であったマルベックやカルメネールといった名品種が、台木との相性が悪いという理由で表舞台から去ってしまったのだ。
 カベルネ・ソーヴィニヨンは、その後を埋める形で花形スターにのし上がったというのが、つまりは実情である。ちょっぴりセコイような気もしないではない。
 その上、最近のDNA検査によると、どうやらこの品種は、カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランの自然交配から誕生したものらしい。
 従来、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランの関係は、ソーヴィニヨンが親で、フランはそこからの突然変異で生まれた、ちょっぴり質の劣る息子だくらいに説明されていたのだけれど、その関係も反対だったわけだ。
 なんだか、名品種のメンツ、まるつぶれである。
 もっとも、この新参者は、やっぱり、なかなか大したやつで、先述したように主役の地位を奪って以降、ボルドーの名シャトーの名声を貶めるどころか、いっそう赫々と輝かせただけでなく、イタリアに、スペインに、そしてアメリカ、チリ、アルゼンチン、オーストラリア、そして日本にと、世界中いたるところにその生息域を広げ、その土地の最高のワインの数々を生み出していくことになる。
 中国に「臥龍鳳雛」という言葉がある。ひとたび風を呼べば、龍となり、鳳となって天に登るはず大器が、いまだ時期をえていないという状況を言っているのだが、フィロキセラ以前のカベルネ・ソーヴィニヨンは、つまりは、そんな状況にあったのかもしれない。
 カベルネ・ソーヴィニヨンという葡萄は、もともと水はけのよい砂利質の土壌を好む。
 そのため、本場ボルドーのメドック地区などでは、丘の上の砂利が厚く堆積している場所にこの品種を植え、丘の下の粘土質の場所にはメルロを植えるというような住み分けを行っている。
 ボルドー以外の、(たとえば日本のような)粘土質の多い土壌の土地にどうしても植えざるをえない場合には、水分や栄養分をあまり吸い上げないタイプの台木に接ぎ木をし、それでも伸び放題に伸びがちな枝葉を適度に剪定し、さらに収穫量を減らすために摘房も強めに行うという小まめな世話が必要になる。房数を減らし、すべての栄養分を残された房に集中させなければならないのだ。
 さもないと、このやっかいな品種は、房に行くべき栄養分をすべて枝葉の生長のために使ってしまい、肝腎の実のほうの品質は、薄っぺらで青臭いだけの、情けないようなものに成り下がってしまう。
 20年ほど前までの日本では、
「カベルネ・ソーヴィニヨンは、ホウズキやピーマンの香りが特徴だ」
 と教えられていたのだが、今考えれば、それは充分に熟していないカベルネに特有の青臭さにすぎず、当時の日本の栽培技術では、その程度のワインが限界だったということにすぎなかったわけだ。正直を言って、そのワインは、(つくった本人を前にしては、とうてい本音なんか言えなかったけれど)、ちっともおいしいとは思えなかった。
 いいワインをつくるために葡萄の完熟度を高めなければならないなどということは、ほとんどの品種に共通の常識だが、それ以外に、この品種の場合には、房そのものに太陽の光をどの程度当てるかが、とても大切になる。たったそれだけのことで、香りの質がまったく異なってくる。
 陽光をたっぷりと当てると、カシスやブルーベリーのジャムを思わせる、濃厚で甘い香りを漂わせるようになるのに対して、房を枝葉で被って完全な日陰にして育てると、ピーマン系の香りを立ち昇らせるようになる。一度ぼくは、カリフォルニアで、ピーマンを通り越し、唐辛子を油で焦がしたような辛くて焦げ臭い香りのカベルネに出会ってびっくりしたことがある。あんまりびっくりしたので、みやげに1本買って帰ろうとしたら、同行した現地の醸造家に止められた。
「こんなものを買ったら、ワインのことがまったく分かってない素人だってなめられちゃいますよ」
 なめられてもいいから買う、と言ったところ、
「あなたがなめられるのは、いっこうにかまわないけど、なめられるのは、ぼくです!!」
 ということなので、あきらめた。
 つまり、やりようによっては、そのくらい変てこなワインにすることも可能な品種だということだ。
 もっともこういう説明をすると、まるでぼくが「青臭い香りは無価値だ」と言っているように思われるかもしれないが、それは誤解というものである。
 カベルネ・ソーヴィニヨンに特有の「気品」は、まちがいなくこの「青臭さ」と密接に結びついている。早い話が、カリフォルニアワインなどでよく見かける、完全に青臭さをぬぐいさった、ジャム系だけの甘い香りのカベルネ・ソーヴィニヨンは、単純においしいだけで、面白くもなんともない。
 ちなみに、チリやアルゼンチンの強い日差しの下では、普通に育てると、どうしてもそういう、ただのおいしいワインになりがちである。
 そこでたとえば、チリ最古の葡萄園のひとつ(なんと、樹齢120年以上!!)のサンタ・ロザの場合には、葡萄を上下二段に実らせ、上の段の房は完全に葉っぱで被ってしまい、下の段の房には光を当てるという工夫をしている。樹齢の高さもあいまって、かなりなワインに仕上がっていると思う。
シャトー ラフィット・ロートシルト
(ポーイヤックAC)
フランス/ボルドー地方 / メドック地区 / ポーイヤック村

いわずと知れた、ボルドーのトップ・シャトー。1855年の公式格付けで、グランクリュの筆頭。葡萄はカベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロ20%、カベルネ・フラン10%ということになっているが、これはあくまでも植えつけ面積の比率なので、実際のワインになった時の比率は年によって異なる。カベルネ・ソーヴィニヨンという葡萄が、表面的な力づよさの陰に、どれほどのフィネスを秘めているかを、理想的な姿で教えてくれるのが、このワインだと思う。数十年の熟成の後に見せてくれる繊細さと気品には比類がない。
登美の丘ワイナリー 見晴らし台園 
カベルネ・ソーヴィニヨン

(サントリー)

日本/山梨県

山梨県の西北に位置する登美の丘ワイナリーの中で、もっともカベルネ・ソーヴィニヨン種の栽培に適している「見晴らし台園」産。水はけのよい高台の畑に、ボルドーに多い珪石をすきこみ、有機肥料で土づくりをしている。収穫量を厳しく制限し、完熟果のみを厳選、品種の特長のよくでたワインに仕上げている。新世界のグラマラスなカベルネとは対照的にスレンダーな美女といった趣き。今後もこの方向で美しさに磨きをかけていけば、日本ならではのカベルネの風味が確立できるのではないかという期待を抱かせる。
サンタ カロリーナ レセルヴァ デ ファミリア 
カベルネ・ソーヴィニヨン

(サンタ カロリーナ社)

チリ産

チリでも最古の葡萄園のひとつ、サンタ・ロザに植えられている樹齢120年以上のカベルネ・ソーヴィニヨンからのワイン。チリには、葡萄の根を食い荒らすフィロキセラがいないため、この国の葡萄は接ぎ木されていない。そして自根の葡萄の樹というのは、どうやら驚くほど長寿であるらしい。120歳になりながら、たわわに葡萄を実らせる、その生命力には感動的なものがある。老樹の葡萄は、粒が小さく、皮が厚いため、香りとウマミが凝縮された見事に大柄なワインが出来上がる。話の種にも、一度は飲んでおきたいワインである。


山田 健(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。


■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」後編
■Vol.4「メルロ種」前編
■Vol.4「メルロ種」後編
■Vol.5「リースリング」前編
■Vol.5「リースリング」後編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」前編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」後編
■Vol.7「シラー」前編
■Vol.7「シラー」後編
■Vol.8「サンジョヴェーゼ」前編
■Vol.8「サンジョヴェーゼ」後編
■Vol.9「甲州」前編
■Vol.9「甲州」後編
■Vol.10「カベルネ・フラン」
■Vol.11「ガメ」
■Vol.12「マルベック」
■Vol.13「マスカット」
■Vol.14「マスカット・ベーリーA」
■Vol.15「ジンファンデル」
■Vol.16「ネッビオーロ」
■Vol.17「ゲヴュルツトラミナー」
■Vol.18「シュナン・ブラン」
■Vol.19「テンプラニーヨ=ティンタ・ロリス(葡)」
■Vol.20「セミヨン/ミュスカデ」
■Vol.21「ピノ・グリ(ピノ・グリージョ)/トレッビアーノ(ユニ・ブラン)」
■Vol.22「ミュラー・トゥルガウ/グリューナー・フェルトリーナー」
■Vol.23「その他の赤ワイン用葡萄品種」
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