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コラム&レシピ
セパージュを飲む
vol.3 メルロ種(前編)

 メルロという葡萄が、一躍世界の脚光を浴びたのは、間違いなくシャトー・ペトリュスの華々しい登場と期を一にしていた。
 いまさら言うまでもなく、シャトー・ペトリュスは、ボルドー地方ポムロール地区を代表するトップ・シャトーである。世界で最も高価なワインのひとつであり、いやしくもワイン関係者でその名を知らない人間はひとりもいないだろう。しかし、わずか40年ほど前までは、反対に知っている人の方が例外中の例外だったと言っていい。
 ほとんどというか、まったく無名のシャトーだったのである。
 その無名のシャトーを、力づくで世界のヒノキ舞台に引きずり上げたのは、ニューヨークの超有名レストラン「ラ・パヴィヨン」の主人アンリ・ソーレだった。
 彼は、偶然発見したこの素晴らしいワインを、店を訪れる世界的な名士たち――オナシス、ケネディー、ロックフェラー、ウィンザー公爵といった錚々たる面々に、
「ぜひともお試しいただきたい」
 と、強く、情熱的に勧めたのである。
 ペトリュスが、わずか11ヘクタールの畑しかもたず、生産量も年間3000ケースほどしかなかったことも、伝説の誕生に拍車をかけた。
 ペトリュスの人気と名声は、文字通りウナギ登りになり、それまでは後塵を拝することさえできなかった雲の上のワイン「シャトー・ラフィット」や「シャトー・マルゴー」の価格をあっというまに追い抜いてしまった。
 オーナーのムエックス氏も、なかなか芝居ッ気のある人物で、収穫の前夜に雨が降ったような時には、早朝の畑にヘリコプターを呼んで低空飛行をさせ、房から雨粒を吹き飛ばすといった「いかにも」という大見得を切り、ワインジャーナリストたちに格好の話題を提供した。
 こうして、一夜にして世界の頂点にたったペトリュスは、以後、「シンデレラ・ワイン」の元祖と呼ばれるようになるのだが、そのペトリュスの葡萄が、ほかならぬメルロだったところから、それまでは地味な脇役にすぎなかったこの品種が、星への道を駆け登り始めるのである。
 さて、ペトリュス以前のメルロは、特にボルドー地方メドック地区において、カベルネ・ソーヴィニヨンの理想的な相方と考えられていた。
 
カベルネ・ソーヴィニヨンは、ワインにしっかりとした骨格と筋肉をそえる。しかし、それだけでは、あまりにも厳格で近寄りがたい印象の酒になりやすいのを、メルロのもつ、ふくよかで魅力的な果実味が和らげるという関係だったわけだ。
 しかも、この品種はカベルネ・ソーヴィニヨンとは正反対な土壌条件を好むという、ボルドー地方にとって、うってつけの性格をもっていた。
 最も典型的なメドック地区に例をとって説明すると、このあたりの土壌は、表面をジロンド河が運んできた砂利質が被い、その下に粘土質が隠れているという構造をとっている。丘の上は砂利質が厚く、丘を下るにつれて粘土質が表面に現れてくるわけだ。
 そして、カベルネ・ソーヴィニヨンは、水はけのよい、砂利質の深い土壌を好み、そのような土壌でないと十分に成熟できないのに対し、メルロは、反対に水もちのよい粘土質土壌のほうが完熟しやすいという性格をもっている。
 つまり、丘の上にカベルネ・ソーヴィニヨンを植え、丘の下にメルロを植えれば、理想的な補完関係が誕生するのである。
 ボルドーに、もしもこのふたつの品種がなかったなら、どうなったかを考えてみるといい。カベルネ・ソーヴィニヨンだけだったら、丘の下の広大な平地が二流の畑に転落していただろうし、反対にメルロだけだったら、丘の上の砂利が無用の長物と化していただろう。
 このふたつの葡萄を、栽培品種の中心に置いたのは、葡萄栽培者たちの見事な知恵だったとしか言いようがない。
 ちなみに、(意外かもしれないが)、ボルドー全体で見ると、カベルネ・ソーヴィニヨンに向いている砂利質の土地よりも、メルロに向いている粘土質の土地のほうが圧倒的にたくさんある。現実の植えつけ面積もメルロのほうが、倍近くも広い。
 ボルドーワインというと、ぼくらはついカベルネ・ソーヴィニヨン主体だと思い勝ちだが、一般的なボルドー・ジェネリックのワインは、実はメルロ主体のもののほうが、はるかに多いのである。
 メルロでつくられたワインの特長は、一言でいって「なめらかでたっぷりとした果実味」にある。
 味わいの中心には、プラムを思わせる艶やかな酸味があり、カシスやブルーベリー、ブラックチェリーなどの黒い果実、青い果実の甘い香りが特徴的に香り立つ。
 タンニンは、カベルネ・ソーヴィニヨンに比べると量的にも少なく、また果実も完熟しやすいので、優しくまろやかな口当たりになることが多い。ただし、なにかの拍子に墨汁を思わせる黒っぽい香りが漂うこともある。
 また、非常に濃厚で出来のよいワインの場合や、反対に無理やり香りを引き出したいがために、皮や種を過剰なまでに長く漬け込んだ場合には、なめし皮を思わせる特有の動物臭が漂うこともある。もっとも、同じ動物系の香りとは言っても、前者では心地よいニュアンスに感じとれることが多いのに対し、後者の場合は、しばしば不快な印象に転落する。
 熟成は、カベルネ系にくらべると、一般に早い傾向がある。
 ただし、出来の良い年のペトリュスだけは例外で、20年、30年たっても10代の女の子みたいにピチピチしていることがある。そういう酒に出会うと、ワインというものは、どうやら人間よりもずっと長寿なことがあるらしいと、素直に納得できるに違いない。
シャトー・ペトリュス


ボルドー・ポムロール地区を代表するシャトー。この地区に公式な格付けはないが、人気・価格ともに、常に周辺地区の特級格付けシャトーをしのいでいる。畑は、ポムロールの丘の最上部にあり、土壌は非常に純度の高い粘土質。メルロ以外に、ほんの数パーセントのカベルネ・フランも植えられているが、シャトーものに使われることは滅多になく、シャトーものは、混じりけなしのメルロ・ワインだと考えていい。メルロという葡萄のもつ偉大な可能性を語るためには、ぜひ一度は飲んでおきたい名品だが、とにかく高い。
シャトー・ティユリー
フランス・アントル・ドゥー・メール地区・ラソーヴ村

2000円前後で買える気軽なボルドーワイン。メルロ60%、カベルネ・ソーヴィニヨン20パーセント、カベルネ・フラン20パーセントという植えつけ比率は、ボルドーACのシャトーの典型的なものと言っていい。ほどよいタンニンとほどよいコクに恵まれた気楽な風味は、メルロ主体ならではのもの。そういう典型例として挙げただけなので、特にこのシャトーでなければならない必然性はなく、他のシャトーでも似たような味わいは楽しめる。(ただし、ボルドーACのシャトーの中には、失敗したメルロに特有の、汗臭い動物臭が漂うものも多いので、そういう意味では注意が必要かもしれない)。


山田 健(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。

■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」後編
■Vol.4「メルロ種」前編
■Vol.4「メルロ種」後編
■Vol.5「リースリング」前編
■Vol.5「リースリング」後編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」前編
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■Vol.8「サンジョヴェーゼ」前編
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■Vol.19「テンプラニーヨ=ティンタ・ロリス(葡)」
■Vol.20「セミヨン/ミュスカデ」
■Vol.21「ピノ・グリ(ピノ・グリージョ)/トレッビアーノ(ユニ・ブラン)」
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