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コラム&レシピ
セパージュを飲む
vol.5 リースリング(後編)

 さて、リースリングを語る際に忘れてはならないのは、ドイツワインの特殊な格付けシステムである。
 フランスの格付けが、土地の良し悪しに基づいているのに対し、ドイツのそれは、葡萄の糖度を基準にしているのだ。(畑の公式な格付けは存在しないので、名畑については個別に憶える他にない)。
 一番下はターフェルヴァイン、つまりテーブルワインだが、これについては置いておき、高級ワインの最低ランクであるQbAから説明を始めたい。
 QbA(産地限定高品質ワイン)は、糖度約15度以上の葡萄からつくられる。指定地域は現在13あり、異なる地域の葡萄をまぜることは禁止されているため、産地の個性がそれなりに保証されている。
 その上のランクがQmP(称号つき高品質ワイン)と呼ばれるもので、糖度約17,5度以上の葡萄からつくられ、産地も小さな栽培地区(ベライヒ)に区分されているため、個性も一層くっきりと表現されることになる。発酵前の補糖が一切禁止されているのも、このランクの特徴である。
 そして、そのQmPが、糖度の高さによって、さらに6段階に区分されている。

(1)カビネット 宝物を入れておく小部屋くらいの意味で、もともとは、このカビネットが今で言うQmPと同じ意味をもっていた
(2)シュペートレーゼ シュペートは「遅い」、レーゼは「収穫」。つまり遅摘みの糖度が上がった葡萄からのワインという意味
(3)アウスレーゼ 選り抜きの収穫という意味。「房選り」と訳されることも多いが、実際には房ごとに選ぶ訳ではなく、一房の中でも糖度の高い部分を使用する
(4)ベーレンアウスレーゼ ベーレとは、英語のベリー、つまり葡萄の「粒」という意味。直訳すれば「粒選り」ということになる。実際には、粒を選ぶというよりも、貴腐葡萄がまじり始めたあたりの部分を切り分けてワインにする
(5)アイスヴァイン 氷のワイン。葡萄の房を真冬の厳寒が訪れるまで樹にならせておき、凍りついた房を絞ってつくる。粒の中の果汁は水分から凍り始めるので、凍りにくい成分が凝縮され、まるで蜂蜜のようにトロトロの果汁を得ることが出来る。北国ドイツならではの知恵といえる。なお、アイスヴァインづくりでは、(4)や(6)とは違い、貴腐菌のまったくついていない健全な葡萄が選ばれる
(6)トロッケンベーレンアウスレーゼ これが、つまり貴腐ワインである。トロッケンとは、英語のドライ。トロッケンベーレとは乾いた粒という意味である。貴腐菌というカビの一種が果皮のロウ質を溶かすことにより、樹になったまま乾し葡萄状になった粒を、文字通り一粒一粒選び抜いてつくる甘美を極めたワインで、糖度は最低でも約38度、時には60度を超えることさえある。ただし、フランス・ソーテルヌ地区の重厚な風味の貴腐ワインとは異なり、リースリングならではの美しい酸味が豊かに含まれるため、甘さが重く感じられることは滅多になく、みごとなまでにエレガントな味わいに仕上がることが多い


 
 リースリングというと、自動的に甘口のワインを連想しがちだが、実は「やや辛口」や完全に「辛口」のワインも結構つくられており、甘味を抑えた「やや辛口」のワインは、意外なほどにおいしい。
 完全な辛口は、気候が温暖なフランケン地方やファルツ地方、ヘッセン地方などで素晴らしいものが出来るが、冷涼なラインガウ地方やモーゼル地方の場合、カビネットクラス以下の完全な辛口は、われわれ日本人の舌には、ひたすら酸っぱいだけとしか思えないワインが多く、あまりお奨めはできない。中には、ラベルを見なければ、ただのお酢かと勘違いするほどに酸っぱいものさえあり、そういうワインを飲むと、大袈裟でなく額に汗が伝う。
 ただし、ラインガウのシュペートレーゼの辛口と、モーゼル・ザール・ルーヴァーのアウスレーゼの辛口には、時に絶品がある。最低でも10年ほどは寝かしてから、その深みある風味を楽しみたい。
 とは言え、リースリングの本領が、ほのかな甘口から、貴腐やアイスヴァインに代表される極甘口にあることも、まちがいない。
 風味の素晴らしさは言うまでもないが、特筆すべきは、その長寿さである。
 10年、20年は、当たり前で、貴腐ワインのトロッケンベーレンアウスレーゼの中には、100年という歳月を軽々とまたぎこすような驚くべき酒も決して珍しくはない。
 ロバート・ヴァイル醸造所には、最後のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世がこよなく愛したことで知られる1893年もののアウスレーゼが、まだ数本残されているが、ちょうど100年後の1993年にこのワインを開けた4代目当主のヴィルヘルム・ヴァイル氏によると、
「驚くほどみずみずしい果実味が残っていて、飲むほどに感動が体のすみずみにまで染み通っていくようなファンタスティックなワインだった」
 ということだ。
 アウスレーゼでさえ、それほどに長寿なのだ。極上のトロッケンベーレンアウスレーゼが、どれほどの歳月にわたって成長しつづけるものなのかは、ちょっと想像もつかない。
 最後に、ドイツ以外のリースリングにも触れておこう。
 リースリングという葡萄が、風土の個性を鏡のように映し出す能力を持つということは、すでに触れたが、残念ながら、ドイツ以外の土地でつくられたリースリングは、多くの場合、欠点の方を鏡のように映し出してしまう。
 特に、暖かい土地でつくられたリースリングは、酸味がぼやけ、果実味からもみずみずしさが失われがちで、なにも苦労して植える必要はなかったんじゃないの、と言いたくなるようなものが多い。
 同じ能力を持つシャルドネに比べて、リースリングがなかなか国際的な葡萄にならない理由が、まさにここにあるのだが、そういう中で、例外的に素晴らしいワインを生み出しているのが、フランスのアルザス地方と、オーストリアのヴァッハウ地方である。
 アルザスは、フランスとドイツの国境地帯にあり、歴史的に、フランス領になったり、ドイツ領になったりを繰り返してきたため、葡萄も両国の品種が植えられており、極端な遅摘み以外は、フランス的な辛口に仕立てられることが多い。リースリングの辛口も、非常に華やかで、かつ切れ味がよく、料理との相性は素晴らしい。遅摘み葡萄からの甘口ワインも、ドイツの名品に勝るとも劣らない。
 オーストリア・ヴァッハウ地方のリースリングも忘れることは出来ない。ドイツのシュペートレーゼに相当する「スマラクト」というクラスの辛口は、辛口リースリングの世界における最高峰のひとつと言って過言ではない。10年ほど熟成させてから飲むリースリング・スマラクトは、うっとりするほどに見事である。
ドメーヌ・ヴァインバック リースリング
〈キュベ・テオ〉
クロ・デ・キャプサン 2003


アルザスを代表する名醸造元ドメーヌ・ヴァインバックからの辛口。クロ・デ・キャプサンはこの醸造元の単独所有の畑で、品質的には間違いなく「グラン・クリュ」つまり「特級」に格付けされる資格があるが、「単独所有の畑はグラン・クリュに認定しない」という訳の分からない規定のために、格付けを拒否されている。蜜リンゴを思わせる甘く熟した香りと、大地からの豊かなミネラル分、そして硬質の酸味が、みごとな調和を奏でる、まさにアルザス的なリースリングである。
ニコライホーフ醸造所
リースリング フォン・シュタイン スマラクト 1995


オーストリア・ヴァッハウ地方のトップ醸造所。哲学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した有機栽培「バイオ・ダイナミック農法」の先駆者で、有機栽培ならではの「大地の恵み」を生かしたスケールの大きい辛口ワインを生み出している。製品名のスマラクト(英語のエメラルド)とは、ドイツのシュペートレーゼに相当する格付け。この土地に棲むエメラルド色の美しいトカゲが、晩秋になっても岩の上でひなたぼっこをしているような年に、いい遅摘み葡萄が採れるところからの命名だそうだ。ボディは硬く引き締まっており、若い内にはかなり飲みにくいが、10年の熟成で、蜜のように甘い香りの漂う、厚みと繊細さを兼ね備えた、驚くほどに心地よいワインに変貌する。95年は偉大な年で、まさに今が飲み頃。  



山田 健(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。

■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」後編
■Vol.4「メルロ種」前編
■Vol.4「メルロ種」後編
■Vol.5「リースリング」前編
■Vol.5「リースリング」後編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」前編
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