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コラム&レシピ
セパージュを飲む
vol.7 シラー(後編)

 それはさておき、ここ十数年間のこうした流れの中で、それまでワイン界の中心にいたとはとうてい言えない本場ローヌの名酒たちにも、「あのシラーズ種の原産地だ」ということで、あらためて光が当てられるようになってきた。
 20年前までは、エルミタージュやコート・ロティ、ましてやコルナスなんかは、ものすごくマニアックなワインという位置づけで、名声がない分だけ驚くほどにお買い得なお値段だったのだけれど、いまではどうかするとボルドーのトップシャトーよりも高値で取引きされたりしている。
 個人的には、ひどく残念である。
 さらに、フランスにおける栽培地もどんどん広まっている。
 北部コート・デュ・ローヌから南部コート・デュ・ローヌへ、そしてプロヴァンス、ラングドック・ルーションへ。
 もっとも、南部コート・デュ・ローヌでは、シラーが単独で使われることは滅多にない。  
 有名なシャトー・ヌフ・デュ・パプやジゴンダスなどでは、もともとグルナーシュやサンソー、ムールヴェードル、シラーといった沢山の葡萄を混醸する伝統があったのだけれど、その中で、シラーの植付け比率が急速に高まってきたということだ。
 同時に、それらのワインの風味も、かつての、複雑で、深みと暖かみはあるものの、なんとなく茫洋とした素朴な風味から、シラー種主導による輪郭のはっきりした、力強い味わいに変わりつつある。
 ラングドック・ルーションでも、事情は同じようなものだが、この地方では、1987年にワイン法が改正され、「ヴァン・ド・ペイ・ドック」つまり「ラングドック・ルーション地方の高級地酒」というジャンルの中に、1種類の葡萄品種を100パーセント純粋につかった「葡萄品種名ワイン」という規定が出来、それ以降、シラーは、カベルネやシャルドネなどと並ぶ、最も重要な品種として、ますますその存在価値を高めつつある。
 さて、しかし、オーストラリアのシラーズと、本場フランスのシラーとは、ふたつの点で、決定的に異なっている。
 まず、オーストラリアのシラーズには、タンニンがほとんどない。つまり、渋くないのである。
 タンニンという成分は、皮ではなく種の中にある。
 そして、アルコール分がある程度高くないと、ワイン中に溶け出すことができない。
 つまり、発酵がすんだ後のワインに、一定期間、種子を漬け込んでおかないと、タンニンの抽出は出来ないのだ。
 フランスの伝統的なワイン産地では、当然この発酵後の浸漬を充分におこなう。エルミタージュやコート・ロティのスパイシーで重厚なタンニンは、このようにして抽出されたものなのである。
 一方、オーストラリアでは、発酵の途中で、皮からの色素とうまみ成分の抽出が必要なだけ行なわれたと判断した時点で、いったん圧搾し、皮と種を取り除いた上で再び発酵を進めるという方法をとることが多い。
 そのかわり、皮からのうまみをたっぷり引き出すために、畑では水分の調整を厳しく行ない、粒の小さい、皮の厚い葡萄を収穫するように心がけ(シラーズという葡萄は、もともと粒は大きめなほうなのだけれど、「グランジ」に使われる葡萄などは、小粒のブルーベリーくらいの大きさしかなく、口に含んで噛むとプチンとはじけるくらいに皮が厚い。初めて見た人は、これが同じ葡萄かと例外なくびっくりする)、また発酵にも回転式のタンクを使ったり、あるいは発酵初期の攪拌を強めに行うなどして、よりスピーディに成分の抽出を行なう工夫をこらしている。
 そういうわけで、発酵途中で圧搾してしまうにもかかわらず、多くの場合、その色あいは本場ローヌのものよりも濃く、成分もぎっしりと凝縮されていることが多い。
 種からのタンニンを嫌うのは、それでなくても濃密な味わいが、その上タンニンまであったのでは、なにがなんだか分からなくなるくらいに濃くなってしまうに違いないと危惧しているからなのだろう。
 ちなみに、このような技法で作られた最上級のワインは、エルミタージュなどと違って、まるでポートワインから甘味を抜いたような、甘やかな香りのものになり、ローヌのワインに共通してある黒胡椒を思わせるスパイシーな風味やゴムを連想させる重い香りが出るようなことは滅多にない。
 もうひとつの違いは、樽である。
 ローヌのワインが、当然フレンチオークの樽を使っているのに対して、オーストラリアでは、ほとんどの場合、アメリカンオークの樽で熟成が行なわれている。
 そのため、アメリカンオークに特有の、ココナッツやお菓子のミルキーを思わせる甘い香りが漂うものが多い。(最近は、フレンチオークに寝かされるワインも出てきているが、
「グランジ」を始めとして、アメリカンにこだわる名酒のほうが、まだまだ多い)。
 つまり、シラーとシラーズは、葡萄の分類学的にはまったく同じ品種であるにもかかわらず、もはやまったくの別物だと考えていいのかもしれない。
 ただし、ジビエ料理との相性という一点だけが、完全に共通しているのは、不思議という他ない。
 ひと昔まえにくらべて「グランジ」はバカみたいに高くなってしまったけれど、幸いにも、手頃な価格で充分以上に楽しめる後継ワインが育っていて、そういうワインと、カモやらイノシシやらを楽しんでいると、「こんないい思いばっかりしていると、いつかはバチが当たるんだろうなあ」なんて、ちょっぴり怖くなったりもする。
● ペンフォールド 「グランジ」

オーストラリアの「高級ワインの父」マックス・シューバートの傑作。オーストラリア各地から選りすぐられたシラーズ種とカベルネ・ソーヴィニヨン種(多くても8パーセント以下)のブレンド。世界の高級ワインの中で、出来た葡萄の品質次第で産地を変更するなどという破天荒なことをしているのは、多分オーストラリアだけで、この国のそういう自由自在な発想の原点になったのも、「グランジ」に他ならない。最高級のヴィンテージ・ポートから甘味を抜いたような風味で、優れたヴィンテージのものは40〜50年の長寿を誇る。
● ペンフォールド 「カリムナ」

「グランジ」の醸造元であるペンフォールド社のシラーズを気軽な価格で楽しめる一瓶。「グランジ」同様、サウス・オーストラリアのいくつかの地域からの葡萄を選りすぐっており、アメリカンオークの古樽(1〜2年使用)で15ヶ月熟成。「グランジ」のような濃醇さは、もちろん期待できないが、この国のシラーズ特有の力強い果実味と甘やかなコク、エレガントな樽香とのバランスは出色。若いうちから楽しめるのもいい。ジビエと合わせるなら、本当に若いワインをぶつけてしまっても、なんの問題もない。


山田 健(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。

■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」後編
■Vol.4「メルロ種」前編
■Vol.4「メルロ種」後編
■Vol.5「リースリング」前編
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■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」前編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」後編
■Vol.7「シラー」前編
■Vol.7「シラー」後編
■Vol.8「サンジョヴェーゼ」前編
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■Vol.21「ピノ・グリ(ピノ・グリージョ)/トレッビアーノ(ユニ・ブラン)」
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