辻調グループ校　コンピトゥム　Compitum

オーストリーを代表する固有の葡萄品種
グリューナー・フェルトリーナー

　ウィーン郊外のグリンティング村に通称ベートーヴェン・ハウスと呼ばれる居酒屋（ホイリゲ）がある。1817年の夏に、この店の一角にベートーヴェンが下宿して、第九の作曲にいそしんだことで世界的に知られている名店である。
　酒飲みのベートーヴェンが、下宿先でつくられている新酒（ホイリガー）を飲まなかったはずがない！！　ということで、晩秋の新酒の季節になると、世界中からベートーヴェンファンがこの店を訪れて、大作曲家と同じ霊感を授かろうと大杯を傾け、霊感どころか、単なる酔っ払い集団と化している。
　ベートーヴェン・ハウス以外にも、ウィーン近郊には、200軒に近いホイリゲがあり、大量の新酒を提供しているのだが、他ならぬ、この新酒の原料こそが、グリューナー・フェルトリーナーなのである。
　この葡萄は、文字通りオーストリーを代表する品種で、栽培面積も最も広い。
ワインは、しっかりとした味わいの辛口になり、独特のスパイシーな風味を持ち、料理にもよく合う。
　しかし、残念なことに、ホイリガーに代表される大量生産型のワインの場合には、時にビニールを連想させるような独特の香りが漂い、日本人にとっては、最初のうちは、ちょっとなじみにくいかもしれない。
　そういう時にも、出来れば、この品種を一気に見捨てるようなことはしないでほしい。この品種の本領は、ウィーンの西方にあるヴァッハウ地方にあるからだ。この地方の優れた醸造元のワインは、掛け値なしに素晴らしい。
　この地方では、ドイツのＱｂＡに相当するワインを「シュタインフェーダー」、カビネットクラスを「フェーダーシュピール」、シュペートレーゼを「スマラクト」と呼ぶのだが、フェーダーシュピール以上のグリューナー・フェルトリーナーに出会ったら、ぜひ買い求める価値がある。
　香りにコショウのニュアンスの漂う、フルーティで爽やか、辛口で後口の切れが良い、独特のおいしさを楽しむことができるだろう。


		●リート・ムッケンタール　ホイリガー　グリンツィング　ヌスベルク　オーストリー・ウィーン地方ウィーン郊外のグリンツィング村は、新酒のホイリガーと、その新酒を出す居酒屋「ホイリゲ」が軒を連ねていることで知られている。18世紀末に、ヨーゼフ2世が「自家ブドウ園で、自ら醸造したワインに限り、直接消費者に販売することを許可する」という法令を出して以来、農家の中庭にテーブルを置き、出来立ての新酒をふるまう、今に続く風物詩が誕生した。このワインは、そのようにして楽しまれている新酒を瓶詰めしたもの。オーストリー版のヌーヴォーである。

		●ニコライホーフ　グリューナー・フェルトリーナー　フェーダーシュピール　オーストリー・ヴァッハウ地方ニコライホーフは、オーストリー最高の銘醸地ヴァッハウ地方にあり、魔術的な有機栽培「バイオ・ダイナミック農法」の先駆者として知られている。フェーダーシュピールは、ドイツのカビネットに相当する格付け。ヴァッハウ地方のグリューナー・フェルトリーナーならではの心地よい果実味と、かすかに感じるほろ苦い風味が絶妙の調和を醸しだしている。ちなみにマインツ大学のユング教授は、このワインを「世界で最も健康に良いワイン」だと認定している。

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文
山田　健（やまだ　たけし）
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」（共に草思社）
「現代ワインの挑戦者たち」（新潮社）他がある。
辻調おいしいネット「コラム＆レシピ」内の『今日は何飲む？』というコラムにて、
「今日は何飲む？」野次馬隊リーダーとして参加。

コンピトゥムも協力しました

定価3,990円
監修：
辻調理師専門学校＆山田　健
講談社刊
11月下旬発売予定

■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
 ■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」後編
■Vol.4「メルロ種」前編
■Vol.4「メルロ種」後編
■Vol.5「リースリング」前編
■Vol.5「リースリング」後編
■Vol.6「ソーヴィニヨン･ブラン」前編
■Vol.6「ソーヴィニヨン･ブラン」後編
■Vol.7「シラー」前編
■Vol.7「シラー」後編
■Vol.8「サンジョヴェーゼ」前編
■Vol.8「サンジョヴェーゼ」後編
■Vol.9「甲州」前編
■Vol.9「甲州」後編
■Vol.10「カベルネ・フラン」
■Vol.11「ガメ」
■Vol.12「マルベック」
■Vol.13「マスカット」
■Vol.14「マスカット・ベーリーＡ」
■Vol.15「ジンファンデル」
■Vol.16「ネッビオーロ」
■Vol.17「ゲヴュルツトラミナー」
■Vol.18「シュナン・ブラン」
■Vol.19「テンプラニーヨ＝ティンタ・ロリス（葡）」
■Vol.20「セミヨン/ミュスカデ」
■Vol.21「ピノ･グリ（ピノ･グリージョ）/トレッビアーノ（ユニ・ブラン）」
■Vol.22「ミュラー・トゥルガウ/グリューナー・フェルトリーナー」
■Vol.23「その他の赤ワイン用葡萄品種」
■Vol.24「その他の白ワイン用葡萄品種」

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