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コラム&レシピ
セパージュを飲む
vol.1 シャルドネ種(前編)
 

 味わいに影響を与える三つめの要素は、人間である。
 この葡萄の場合、畑での世話は、真っ正直なまでにストレートに品質に反映されていく。
たとえば、収穫量を1ヘクタールあたりで80ヘクトリッター以上に増やすと、テキメンに水っぽい味になり、反対に、30ヘクトリッター以下に押さえると、凝縮味が目に見えて違ってくる。
 収穫の時期の見極めも非常に大切である。この品種の場合、完熟の最後の段階で、急速に酸味が失われる傾向があるため、熟したウマミと酸味のバランスのとりかたが難しいのだ。
 中には、酸味を大切にするあまり、未熟な状態で収穫してしまう作り手もいないではないのだけれど、そういう時期の酸味の構成はリンゴ酸に偏っており、そのリンゴ酸は、最終的には乳酸に転化させてしまうため、できあがったワインの酸味は、あろうことか、かえって弱くなってしまったりする。酸味も弱く、熟したウマミにも欠けるワインが出来上がるというわけだ。おバカとしか言いようがない。
 果実の成熟期に、房そのものに太陽の光を当てるかどうかも、香りの質を大きく変える。房が日陰になると、なんとなく青臭いニュアンスが生まれる。北のシャルドネの中に、レモンではなくライムを思わせる香りのワインが生まれるのは、多分そのせいである。
 ごくごくまれにではあるけれど、シャルドネを極端に遅摘みにし、貴腐化を待ってから収穫することもある。貴腐といっても甘口ワインをつくるわけではなく(ルーマニアでは、そういう甘口ワインもつくっているけれど、わざわざ話題にするような品質ではない)、濃厚で力強い辛口に仕上げられる。
 かのロマネ・コンティ家がつくっている「モンラッシェ」がその代表で、そんなにも遅摘みにしながら、しっかりとした酸が残っているのは、神秘としか言いようがない。そういう特別な畑なのだと考える他にないだろう。
 ちなみに、「モンラッシェ」は、大デュマが「脱帽して、ひざまずいて飲むべし」と語ったブルゴーニュの白ワインの最高峰で、伝統的に「貴腐化したシャルドネ」からの濃密なワインをつくってきた。しかし、今日では、その伝統を伝えているのは、ロマネ・コンティ家のものだけで、他家では、貴腐菌のつかない「健全な」葡萄からワインをつくっている。
 ロマネ・コンティ家のモンラッシェは、「蜂蜜、バタースコッチ、ハーブ、トリュフ、コーヒー、葉巻、森の下草・・・」などを連想させる、驚くほどに複雑かつ芳醇な深みある風味で、「偉大」という言葉が、これほどふさわしい白ワインもめったにないと思う。

シャブリ プルミエ・クリュ モンテ・ド・トネール
(ドメーヌ・ヴォコレ)

シャブリ地区モンテ・ド・トネール畑 1級

北の産地ならではの爽やかな酸味と、みずみずしい果実味が特長。牡蠣殻土壌ならではの火打ち石のようなミネラル香はみごと。熟成は伝統的な大樽で、樽香は、かすかなニュアンスほどに抑えられている。
シャブリ プルミエ・クリュ モンテ・ド・トネール
(ドメーヌ・ウィリアム・フェーブル)

同じ畑の醸造元違い 228リットルの小樽で熟成

この醸造元は、かつてはバランスを欠くほどに強い樽香を特長としていたが、最近は古樽の率を高めて、心地よい風味にまとめあげている。
コルトン・シャルルマーニュ
(ドメーヌ・ラペ)

コート・ド・ボーヌ地区コルトン・シャルルマーニュ畑 特級

フランク帝国のシャルルマーニュ大帝が所有していたとされる名畑で、ブルゴーニュの頂点をモンラッシェ畑と競っている。鋼のように力強い酸味と凝縮された果実味が特長。樽香はほどほど。
モンラッシェ
(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)

コート・ド・ボーヌ地区モンラッシェ畑。特級。

貴腐化した葡萄からの芳醇を極めた辛口。新樽100パーセントで熟成。むせ返るほどの樽香がありながら、それが少しも過剰に感じられないのは、果実の凝縮がけたはずれだから。
 
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山田 健(やまだ たけし)
1955年生まれ。78年東京大学文学部卒。
某洋酒会社が刊行している「世界のワインカタログ」編集長。
86年に就任して以来、世界中の醸造所めぐりをし、
年間2000種類以上のワインを飲みまくる。
著書に「今日からちょっとワイン通」「バラに守られたワイン畑」(共に草思社)
「現代ワインの挑戦者たち」(新潮社)他がある。
辻調おいしいネット「コラム&レシピ」内の
『今日は何飲む?』というコラムにて、
「今日は何飲む?」野次馬隊リーダーとして参加。

■Vol.1「シャルドネ種」前編
■Vol.1「シャルドネ種」後編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」前編
■Vol.2「カベルネ・ソーヴィニヨン種」後編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」前編
■Vol.3「ピノ・ノワール種」後編
■Vol.4「メルロ種」前編
■Vol.4「メルロ種」後編
■Vol.5「リースリング」前編
■Vol.5「リースリング」後編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」前編
■Vol.6「ソーヴィニヨン・ブラン」後編
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■Vol.7「シラー」後編
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■Vol.21「ピノ・グリ(ピノ・グリージョ)/トレッビアーノ(ユニ・ブラン)」
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