味わいに影響を与える三つめの要素は、人間である。 この葡萄の場合、畑での世話は、真っ正直なまでにストレートに品質に反映されていく。 たとえば、収穫量を1ヘクタールあたりで80ヘクトリッター以上に増やすと、テキメンに水っぽい味になり、反対に、30ヘクトリッター以下に押さえると、凝縮味が目に見えて違ってくる。 収穫の時期の見極めも非常に大切である。この品種の場合、完熟の最後の段階で、急速に酸味が失われる傾向があるため、熟したウマミと酸味のバランスのとりかたが難しいのだ。 中には、酸味を大切にするあまり、未熟な状態で収穫してしまう作り手もいないではないのだけれど、そういう時期の酸味の構成はリンゴ酸に偏っており、そのリンゴ酸は、最終的には乳酸に転化させてしまうため、できあがったワインの酸味は、あろうことか、かえって弱くなってしまったりする。酸味も弱く、熟したウマミにも欠けるワインが出来上がるというわけだ。おバカとしか言いようがない。 果実の成熟期に、房そのものに太陽の光を当てるかどうかも、香りの質を大きく変える。房が日陰になると、なんとなく青臭いニュアンスが生まれる。北のシャルドネの中に、レモンではなくライムを思わせる香りのワインが生まれるのは、多分そのせいである。 ごくごくまれにではあるけれど、シャルドネを極端に遅摘みにし、貴腐化を待ってから収穫することもある。貴腐といっても甘口ワインをつくるわけではなく(ルーマニアでは、そういう甘口ワインもつくっているけれど、わざわざ話題にするような品質ではない)、濃厚で力強い辛口に仕上げられる。 かのロマネ・コンティ家がつくっている「モンラッシェ」がその代表で、そんなにも遅摘みにしながら、しっかりとした酸が残っているのは、神秘としか言いようがない。そういう特別な畑なのだと考える他にないだろう。 ちなみに、「モンラッシェ」は、大デュマが「脱帽して、ひざまずいて飲むべし」と語ったブルゴーニュの白ワインの最高峰で、伝統的に「貴腐化したシャルドネ」からの濃密なワインをつくってきた。しかし、今日では、その伝統を伝えているのは、ロマネ・コンティ家のものだけで、他家では、貴腐菌のつかない「健全な」葡萄からワインをつくっている。 ロマネ・コンティ家のモンラッシェは、「蜂蜜、バタースコッチ、ハーブ、トリュフ、コーヒー、葉巻、森の下草・・・」などを連想させる、驚くほどに複雑かつ芳醇な深みある風味で、「偉大」という言葉が、これほどふさわしい白ワインもめったにないと思う。
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